桜井さんの部屋に入った途端、「あら泉ちゃん、何かあった?」と心配そうに顔を覗き込まれた。
そういえば、恋する乙女は、他人の恋とか愛とかの事情にも敏感傾向があるのを忘れていた。
ともかく、こういう時は変顔に限る。
「いやぁ今日は猛烈酷暑でヤバいのなんのって、さすがの私もバテましたなー。もしや顔もふやけちゃってます? にしても、ここはいつ来ても適温で快適で春ですねー」
パタパタ手うちわしてみせたら、「あらあら、大変」と桜井さんまで両手うちわで私を仰いでくれる。
手うちわは、二人がかりでもまったく涼しくないけど、なんか気持ちが涼しい。
「外はそんなに暑いのね。ここにいるといつでも適温だから四季がわからなくなるわ。それはそれで寂しいものよ」
ほんとに寂し気に微笑む桜井さんに、うおっ、と焦る。
この人は寂しくさせちゃいけない人なのだ。
「いやでも、さすがに今日は命にかかわる超絶危険な暑さなので、貴族の桜井様は快適な場所にいてもらわないとですって。てことで、メイドは掃除機ちゃちゃっと済ませるんでそのあと、恋バナくださいっ」
「ふふ。可愛いメイドさん、お掃除はてきとうに、ゆるゆるやってね」
(可愛いだなんて……)
「へいっ」
桜井さんの部屋はほぼ私物がない。
モノを動かす必要がないからてきとうにやらなくても、あっという間に掃除機がけが終わった。
あとは除菌スプレーで、棚や窓などを拭きあげるだけ。
本来、掃除は上から下へするものらしいけれど、その方式で部屋の掃除を高校生に任せると、窓を拭いただけで終わっちゃう生徒もいるらしい。
それでケアマネの佐藤さんは苦肉の策として掃除機がけが最初という順番にしたそうだ。
と、掃除のやり方を教えてくれた、いかにもガサツな感じのおばちゃんスタッフが言っていた。
「確かに介護現場はネコの手も借りたいくらい人手不足だけど、貸し出された高校生はネコ並みに気まぐれでしょ。それはそれで困るのよー。あら、やだ、あなたのことじゃないわよぉ」と。
ちょっとイラっとしながらも、うまいこと言うなと若干感心した。
除菌スプレーを手にすると「ええと、どこまで話したかしら」と、桜井さんがタイミングばっちりに話し始めたのだった。
そういえば、恋する乙女は、他人の恋とか愛とかの事情にも敏感傾向があるのを忘れていた。
ともかく、こういう時は変顔に限る。
「いやぁ今日は猛烈酷暑でヤバいのなんのって、さすがの私もバテましたなー。もしや顔もふやけちゃってます? にしても、ここはいつ来ても適温で快適で春ですねー」
パタパタ手うちわしてみせたら、「あらあら、大変」と桜井さんまで両手うちわで私を仰いでくれる。
手うちわは、二人がかりでもまったく涼しくないけど、なんか気持ちが涼しい。
「外はそんなに暑いのね。ここにいるといつでも適温だから四季がわからなくなるわ。それはそれで寂しいものよ」
ほんとに寂し気に微笑む桜井さんに、うおっ、と焦る。
この人は寂しくさせちゃいけない人なのだ。
「いやでも、さすがに今日は命にかかわる超絶危険な暑さなので、貴族の桜井様は快適な場所にいてもらわないとですって。てことで、メイドは掃除機ちゃちゃっと済ませるんでそのあと、恋バナくださいっ」
「ふふ。可愛いメイドさん、お掃除はてきとうに、ゆるゆるやってね」
(可愛いだなんて……)
「へいっ」
桜井さんの部屋はほぼ私物がない。
モノを動かす必要がないからてきとうにやらなくても、あっという間に掃除機がけが終わった。
あとは除菌スプレーで、棚や窓などを拭きあげるだけ。
本来、掃除は上から下へするものらしいけれど、その方式で部屋の掃除を高校生に任せると、窓を拭いただけで終わっちゃう生徒もいるらしい。
それでケアマネの佐藤さんは苦肉の策として掃除機がけが最初という順番にしたそうだ。
と、掃除のやり方を教えてくれた、いかにもガサツな感じのおばちゃんスタッフが言っていた。
「確かに介護現場はネコの手も借りたいくらい人手不足だけど、貸し出された高校生はネコ並みに気まぐれでしょ。それはそれで困るのよー。あら、やだ、あなたのことじゃないわよぉ」と。
ちょっとイラっとしながらも、うまいこと言うなと若干感心した。
除菌スプレーを手にすると「ええと、どこまで話したかしら」と、桜井さんがタイミングばっちりに話し始めたのだった。



