『高校生の皆さん、まもなく介助実習終了の時間です。速やかに業務を終えて食堂ホールに集まってください』

「うわっ、もうそんな時間? まだカナエちゃんの恋バナ終わってないのにー。延長してくれー」
 天井のスピーカーに向かって叫んだら、桜井さんがうふふ、と楽し気に笑った。

「私もすごく楽しかったわぁ。泉ちゃんさえよければ、また明日の放課後、お部屋のお掃除のときに続きを聞いてくれる? 朝の食堂はほら、恋バナするには人が多いでしょ」
 桜井さんが意味ありげにウィンクをしてみせる。

「ああ……確かにです」と、私もその意味を察知して、ニヤリとする。

「朝は男子もいますもんね」
「そうそう。男子の前では、ちょっとね」
 いたずらっ子みたいな桜井さんの笑み。

 桜井さんの可愛さの秘密が、ちょっとわかった気がした。

(おばあちゃんなのに、心が現役女子だからだなー、きっと)

 ゆえに桜井さんは、乙女で可愛いんだなー、と思ったのだった。