五月の早朝はまだ少し肌寒い。
 河川敷の先に聳える介護施設に向かって自転車をこいでいると「うっす、泉」と、燻しブラックのマウンテンバイクが寄ってきて、眠たそうな橘が現れた。

「あ、髪に」と、橘が私の頭上に手を伸ばす。

 ズザザザー、シュッ!!
「へ?」と橘。
「何か?」的な雰囲気で、何でもないふうを装う私。

 実は自分でも驚くほど見事な瞬発力で自転車ごと橘から距離を取っていた。

「え? 今のBMX的な技、どうやったん?」
「いや……私にもわからん」

 ともかく回避成功。
 なぜ回避したのか。

 それは、私の髪が恐ろしく剛毛で、凄まじい毛量で、縮毛矯正しても伸びたところからもこもこ盛り上がってくる超絶くせ毛で、手触りは牧場の薄汚れた羊並みにゴワゴワだからである。
 全然女子高生っぽくないのである。
 つまり、『触るな危険』なのである。

 ああもう~、毎日高級シャンプー&トリートメント&ヘアマスク&高機能ドライヤーしてるのに何故だぁ。
 なぜなんだぁ~~~!!

 とか考えていたら、橘がムカつくくらい爽やかに笑って私の髪を指さした。

「お前、なんつー運動神経してるわけ? つか葉っぱ刺さってんぞ」
「え? あ、ホントだ……ウケる」
 乾山のように刺さっていた。マジか。ウケる。いや、全くウケない。

「つかさ、朝からじいさんばあさんの文句聞くのかって思ったら、萎えんだけど」
「それ、全国の高校生が思ってますなー」