キャスティング・ラブ―運命の配役から始まる恋。

撮影が終わった後の楽屋。
聖人がニヤニヤと笑いながら要の肩を叩いた。

「期待の新人、かなめ。すげぇじゃん、かなめ。」

照れくさそうに俯く要。
「……先生のおかげだよ。」

「お!まなみ先生か!」とタカシが声を弾ませる。

「うん。まなみ先生、本当にすごいんだよ。先生のアドバイスを聞いたら、演技のコツを掴めたんだ。」
要の表情は誇らしげで、自然と笑みが浮かんでいた。

聖人が腕を組み、茶化すように言った。
「珍しいな。かなめが女の人に懐くなんて。女性は苦手だったんじゃなかったのか?」

「先生は女性とかじゃなくて、人として尊敬してるんだよ。俺のことを唯一認めてくれた人だから。」

その真剣な答えに、タカシが声を上げて笑った。
「なんだよ。かなめ、先生のこと好きなのか?」

「は?そんなんじゃねぇし。」
要は顔を赤くしながら、慌てて否定する。

「素直じゃない奴だなぁ。だって先生、綺麗じゃん。」

「は?」

「先生、モテるからさ。他の人に取られちゃうぞ?」

「……え?そうなのか?」
要が動揺を隠せずに呟く。

タカシはすかさずニヤリと笑った。
「やっぱり気になってんじゃん。みんな、かなめに好きな人できたって騒いでるぜ。」

「は!ちげぇし。タカシ、声でかいって!」
要が慌てて小声で制する。その姿に、二人は楽しそうに笑った。

――そのやり取りを、楽屋の外からひっそりと盗み聞きしている男がいた。
要のマネージャーである。彼はすぐにスマホを耳に当てる。

「しゃ、社長。」

電話の向こうから落ち着いた女性の声が響いた。
「かなめのドラマ、順調みたいね。」

「おかげさまで……」

「せっかくかなめのことをクビにできそうだと思ったのに、残念ね。」

「す、すみません……」
マネージャーは額に汗を浮かべ、言葉を詰まらせる。

だが社長の口調は、むしろ楽しげですらあった。
「いいわ。計画変更よ。かなめを売り出しましょう。」

「え?」

「芸能界というのは、突然やってきたチャンスを掴めた人間が成功する場所。かなめには、その運があったの。これからは聖人に来た仕事を、全部かなめに回してちょうだい。タカシに次ぐ二番手として、売り出していくわよ。分かったわね?」

「は、はい……わ、わかりました……」

「では、検討を祈るわ。」

ぷつりと通話が切れる。

マネージャーはしばらく呆然と立ち尽くし――やがて、悔しそうに顔を歪めた。
「……クソッ……!」

手に持っていた資料を力任せに握りつぶし、紙がぐしゃぐしゃに音を立てた。

楽屋から漏れる笑い声と、マネージャーの暗い影が、鮮やかな対比を作っていた。