「僕は、君のことが好きなんだ……」

要の声は震えていなかった。むしろ、これまでで一番澄んでいて、ヒロインを見つめるその瞳には、嘘ひとつない誠実さが宿っていた。

「カット！」

監督の声が響いた。しばし沈黙の後、監督は満足そうに笑みを浮かべる。
「……OKだ。」

スタッフがざわついた。これまで演技が硬いと指摘され続けた要が、まるで別人のように役に入り込んでいたのだ。

「どした？急に良くなってんじゃん。」
プロデューサーが目を細める。

ADが小声で答えた。
「なんか、まなみ先生にアドバイスもらったみたいで。」

「ほうほう……」
プロデューサーは腕を組み、興味深そうにうなずいた。

スタッフのひとりが呟く。
「さすが“育成のまなみ先生”だな。」

「育成のまなみ先生？」と、新人ADが首をかしげる。

「え？知らないの？まなみ先生が抜擢した新人は必ず売れるっていうジンクスがあるんだよ。」

「そうなんですか？」

「そうそう。Lovelyguysのタカシも彼女が見つけた逸材だからな。」
プロデューサーが口を挟む。その口調は、事実を確認するように重かった。

新人ADは目を丸くした。
「Lovelyguysのタカシって、かなめくんと同じグループですよね？」

「ああ。タカシは先生に恩を感じてるから、今回も出演してくれると思ったんだけどな。」
プロデューサーは視線を要に向ける。
「まぁ……かなめも良い感じなら、それでいいけどな。とにかく配信で視聴率を取らないと。」

「ですね。」
新人ADが慌てて同調した。

「よし、宣伝用のSNS撮影するか。」
プロデューサーが指示を飛ばし、スタッフたちが動き出す。

――その喧騒を少し離れた場所から眺めていたのは、要のマネージャーだった。彼は携帯を耳に当て、低い声で囁く。

「……はい。社長。すみません。はい。必ず、かなめをクビにできるように仕向けますので。任せてください。」

要が舞台で輝きを増していく一方で、暗い網が静かに張り巡らされていく。