「すみません、先生。今度のドラマの主演なんですけど、急遽変更になりそうです。」
会議室の静寂を破ったのは、プロデューサーの低い声だった。
机の上に広げられた資料に目を落としていた私は、顔を上げる。
「え?どういうことですか?主演はタカシくんで決定っておっしゃってましたよね?」
思わず声が強くなる。あの役は、彼以外に考えられなかった。
「そのはずだったんですけど、事務所側からNGの連絡が来て…申し訳ございません。」
プロデューサーは頭を下げた。
私の胸に冷たい不安が広がる。
「そうなんですね……」
短く答えるしかなかった。
「やはり国民的アイドルグループのエースとなると、スケジュールを確保するのが困難だったみたいで。」
「そうですよね……主人公にとても合うと思ったんだけどなぁ。」
ため息まじりに呟く。
あのクールで高身長の主人公。タカシであれば、まるで現実から抜け出してきたような存在感を放つはずだった。
「そこで、事務所側からの提案なのですが…」
プロデューサーは数枚の写真を机に並べる。
「同じグループのメンバーに変更して欲しいとのことで。大地くんか、聖人くんなんてどうでしょうか?」
まなみは写真に目を落とした。
確かに人気も実力もある二人だ。だが、彼らはどちらも柔らかな笑顔が似合う“可愛い系”だった。
「うーん……正直言うと、主人公の役はクールで高身長なのが魅力なんです。この二人だと、少し可愛すぎる気が……」
「そ、そうですよね。でも、事務所側からなんとか同じグループで検討して欲しいとのことで。」
プロデューサーは困ったように肩をすくめる。
まなみは首を横に振った。
「いや、そう言われても……どうしても主演のキャラクターを変えたくないんです。」
「そうですよね……」
沈黙が落ちる。
写真をじっと見つめていたまなみの目が、ふとある一人に留まった。
「あ!この子はどうですか?」
「え?どの子ですか?」
「この子です。」
まなみは迷いなく指をさした。
「……あ、この子ね……」
プロデューサーは渋い顔をする。
「この子なら、主人公の役にピッタリじゃないですか。クールそうだし、無表情で何を考えているかわからない感じが、役にそのまま当てはまる。この子でいきましょう。」
「先生……実はこの子、グループの中でも目立たない存在でして。個人仕事もほとんどなく、知名度ゼロに近いんです。今回のドラマは若者向けで、配信でも数字を取りたいので……人気のない子はちょっと。やはり大地くんか聖人くんで。」
だがまなみは一歩も引かなかった。
「いや、この子にしましょう。面白いじゃないですか。無名の子がドラマを通じて人気になる。そんな瞬間を、視聴者に見せられるのは貴重ですよ。」
プロデューサーは苦笑いを浮かべた。
「いや……」
まなみは真正面から彼を見据えた。
「私を信じてください。彼は必ず人気になります。もしならなかったら、私が責任を取ります。今後、仕事を頂かなくても構いません。」
「……本当に言ってるんですか?」
「はい。」
彼女の瞳は一切揺らがなかった。
会議室に再び沈黙が落ちる。やがて、プロデューサーは観念したようにうなずいた。
「……わ、わかりました。」
その瞬間、まなみの胸に確かな手応えが走った。
――この選択が、彼の運命を変える。いや、ドラマそのものの未来を変える。
彼女には、確信があった。
会議室の静寂を破ったのは、プロデューサーの低い声だった。
机の上に広げられた資料に目を落としていた私は、顔を上げる。
「え?どういうことですか?主演はタカシくんで決定っておっしゃってましたよね?」
思わず声が強くなる。あの役は、彼以外に考えられなかった。
「そのはずだったんですけど、事務所側からNGの連絡が来て…申し訳ございません。」
プロデューサーは頭を下げた。
私の胸に冷たい不安が広がる。
「そうなんですね……」
短く答えるしかなかった。
「やはり国民的アイドルグループのエースとなると、スケジュールを確保するのが困難だったみたいで。」
「そうですよね……主人公にとても合うと思ったんだけどなぁ。」
ため息まじりに呟く。
あのクールで高身長の主人公。タカシであれば、まるで現実から抜け出してきたような存在感を放つはずだった。
「そこで、事務所側からの提案なのですが…」
プロデューサーは数枚の写真を机に並べる。
「同じグループのメンバーに変更して欲しいとのことで。大地くんか、聖人くんなんてどうでしょうか?」
まなみは写真に目を落とした。
確かに人気も実力もある二人だ。だが、彼らはどちらも柔らかな笑顔が似合う“可愛い系”だった。
「うーん……正直言うと、主人公の役はクールで高身長なのが魅力なんです。この二人だと、少し可愛すぎる気が……」
「そ、そうですよね。でも、事務所側からなんとか同じグループで検討して欲しいとのことで。」
プロデューサーは困ったように肩をすくめる。
まなみは首を横に振った。
「いや、そう言われても……どうしても主演のキャラクターを変えたくないんです。」
「そうですよね……」
沈黙が落ちる。
写真をじっと見つめていたまなみの目が、ふとある一人に留まった。
「あ!この子はどうですか?」
「え?どの子ですか?」
「この子です。」
まなみは迷いなく指をさした。
「……あ、この子ね……」
プロデューサーは渋い顔をする。
「この子なら、主人公の役にピッタリじゃないですか。クールそうだし、無表情で何を考えているかわからない感じが、役にそのまま当てはまる。この子でいきましょう。」
「先生……実はこの子、グループの中でも目立たない存在でして。個人仕事もほとんどなく、知名度ゼロに近いんです。今回のドラマは若者向けで、配信でも数字を取りたいので……人気のない子はちょっと。やはり大地くんか聖人くんで。」
だがまなみは一歩も引かなかった。
「いや、この子にしましょう。面白いじゃないですか。無名の子がドラマを通じて人気になる。そんな瞬間を、視聴者に見せられるのは貴重ですよ。」
プロデューサーは苦笑いを浮かべた。
「いや……」
まなみは真正面から彼を見据えた。
「私を信じてください。彼は必ず人気になります。もしならなかったら、私が責任を取ります。今後、仕事を頂かなくても構いません。」
「……本当に言ってるんですか?」
「はい。」
彼女の瞳は一切揺らがなかった。
会議室に再び沈黙が落ちる。やがて、プロデューサーは観念したようにうなずいた。
「……わ、わかりました。」
その瞬間、まなみの胸に確かな手応えが走った。
――この選択が、彼の運命を変える。いや、ドラマそのものの未来を変える。
彼女には、確信があった。


