ホラー系乙女ゲームの悪役令嬢はVtuberになって破滅エンドを回避したい


「それでは、わたしはこのままお買い物に行きますね。お嬢様はくれぐれもお外に出ないように! 熱中症も恐ろしいですが――なによりも……ですからね!」
「は、はい」
「こほん。ごめんくださーい」
 
 真智の家の前で(りん)がチャイムを押しながら声をかける。
 パタパタと足音が二つ近づいてきて、真智と真智叔父妻が出迎えてくれた。
 
「いらっしゃいませー」
「よう! 真宵!」
「朝早くに申し訳ありません」
「うちのお嬢様をどうぞよろしくお願いします。あの、これお世話になりますので……。それとこちらはお嬢様の朝食です」
「まあ、お気になさらなくてもよろしいのに」
 
 (りん)と真智叔父妻がそんなやりとりをしている横で、真智が私に手を伸ばす。
 真智は私の来訪が余程嬉しいのかニッコニコ。
 学校でも滅多に見ないご機嫌具合。
 なんだこの可愛い生き物は。
 
「ゲームして遊ぼうぜ」
「いいけど……先にご飯を食べさせて……。朝ご飯をまだ食べてないの」
「え?」
「こらこら、真智もまだ朝ご飯を食べていないだろう? 一緒に食べよう」
 
 リビングから顔を出したのは真智の叔父さん。
 私の肩に手を置いて、「みんなで朝ご飯を食べよう」と笑顔で促してくれた。
 振り返ると(りん)がお辞儀をして玄関の扉を閉めていくところ。
 すぐに真智叔父妻がリビングに来て、そのまま重箱をキッチンに運ぶ。
 
「真宵さんのところの(りん)さんにお食事をいただいたので、合わせていただきましょう。すぐに運ぶから、真宵さんはおててを洗ってきて。真智は洗面所の場所を教えてあげて?」
「うん! いいぜ! こっち!」
「う、うん」
 
 え? あれ?
 真智叔父妻、真智のこと呼び捨てになってる……!
 すごい、めちゃくちゃ距離縮まってるじゃん……!
 
「真智、おば様とすごく仲良くなっているね」
「えへへ。家事を手伝うようになってから、スッゲー褒めてくれるからなー。別に呼び捨てでいいーって言ってやったんだ」
「ふふ……そっか」
 
 ふと、真智のこの家庭状況も私の霊力チートのせいなんじゃ……と不安になったけれど、霊力を使ってはいないし関係ないか。
 あまりにも私の理想の家族がそこにあり、推しが幸せそうで、つい疑ってしまったけれど。
 真智が家族のために家事を手伝い始めたのは真智の意思。
 私の助言を聞くか聞かないかは真智が決めたことだもの。
 うん、わたしのチート能力とやらは関係ないね。
 
「ここ!」
「お借りしまーす」
 
 真智がずっとニコニコなの、本当、良。
 手を洗ってリビングに戻ると、真智叔父夫妻がテーブルに(りん)の作った食事と奥様が作った食事をたっぷり並べてくれていた。
 ちょっとあまりにもテーブル所狭し状態で申し訳ない。
 
「わあー! すっげー!」
「ね、すごいわよね。(りん)さんが真宵さんが今、霊力が切れているからたくさん食べさせてほしいっていっぱい持たせてくださったの」
「霊力切れ? 霊力って切れるの?」
「うん。使いすぎてしまったの。空っぽになったからたくさん食べたり、お昼寝したり、陽の気を浴びたりしなさいって師匠に言われているから、引くほど食べると思うけれど気にしないでね」
「ふーん?」
 
 真智、絶対わかっていない。
 いや、まあ、わかっててもこの量を食べる姿を見られるのはちょっとね。
 乙女心的に……ちょっと、ね……!!
 でも仕方ない。
 これも使いすぎた自分が悪い。
 霊力が多いからと驕った自分のせい。
 というわけで――。
 
「「「「いただきます」」」」
 
 真智のご家庭の食卓にお邪魔して、手を合わせて朝食を食べ始める。
 時間は七時半を少しすぎた頃。
 改めて(りん)がいつこの量の食事を作ったのか気になってきた。
 もしかして、徹夜で作ってくれた?
 味が滲みててめっちゃ美味しいな、この肉じゃが。
 
「うめぇー! 三重子(みえこ)さんの飯?」
「それは(りん)さんが作って持ってきてくれた分ね。うん、こちらの筑前煮も食べやすい大きさで美味しいわ~」
「本当だ。ところでこれはなんだろう? 初めて見る料理だな」
「あ、それはリンゴのパイです。リンゴを砂糖で煮込んで、パン生地を何回も重ねたサクサク生地で包んで焼いたものだそうです」
「へ~~~!」
「デザートよね? 作り方を教えてもらおうかしら……」
 
 私が食べたーい、と言って作り方を教えて作ってもらったことがある。
 それを覚えていたのか、生地から作ってくれたんだが……その生地を冷凍しておいたらしい。
 シゴデキ女……。
 
「でもさすがに多いな。真宵ちゃんは全部食べられそうかい?」
「はい。今霊力が空になっているので、たくさん食べないと……」
「いったいなにをして空になったのかな?」
「お祓いの動画を収録していたのです。気を込めすぎて……空になってしまいました」
「そ、その動画は大丈夫なのかな?」
「ま、まだ確認しておりません。霊力が戻ったら師匠に『必ず安全性を確認しなさい』と言われました」
「そうだね」

 真智叔父にもしっかり、割と真顔で頷かれた。
 やはり気を込めすぎた動画は危険なものになっている可能性が高いらしい。
 や、やらかしたか?

「ところで、真宵さんは夏休みの宿題は終わっているのかしら?」
「はい」
「えええ!? お前もう宿題終わってんの!? 嘘だろ!?」
「そんな嘘つかないよ。さては真智は最終日あたりに一気に終わらせる気だなぁ?」
「うっ」

 当たりか。