ホラー系乙女ゲームの悪役令嬢はVtuberになって破滅エンドを回避したい


「ま、真智の家に電話してきまーす」
「無理そうなら善岩寺(ぜんがんじ)家でも大丈夫だと思う。というか、家格で言うと善岩寺(ぜんがんじ)家が一番無難だろう。あの家は実践派というか、最前線を維持している家の一つだから菊子も強くは出られない」
「わ、わかったぁ」
 
 固定電話に移動する。
 普段であればまだ禊をしている時間帯なので、もしかしたら真智、起きていないかも?
 時計を見ると朝七時十二分。
 起きて……いるかなぁ?
 不安を感じながら黒電話の番号を回す。
 スマホはあるのに固定電話は黒電話が主流という謎。
 最初ガチで使い方がわからなくて困惑したわ、黒電話。
 数字の穴に指を入れて0の下まで回す、を繰り返して電話番号を完成させると聞いた時は『これが……伝説の黒電話……!』となったものよ。
 今使うと結構面白いよね。
 相手方の電話番号がわからないとかけられない、致命的な問題はあるけれど。
 そりゃあ昭和の時代は電話帳が物理で存在したわけだよね、って納得した。
 
『はい、もしもし。宇治家(うじいえ)です』
 
 電話に出たのは真智母だ。
 電話越しでも優しい声。
 いいなあ、私のお母さんは声を発している記憶がない。
 顔も思い出せないから、ちょっと羨ましいよね。
 絶対言わないけれど。
 
「あの、もしもし。真宵です」
『あら、真宵ちゃん。どうかしたの?』
「朝早くにすみません。あの、実家の方がなにやらキナ臭くて……どこかに避難しなさいと師匠に言われたのです。そ、それで……」
『まあ……それは不安ね。もし真宵ちゃんがよかったらうちにいらっしゃいな。数日分の着替えを持ってこれるかしら? もしなかったら、私と買いに行きましょうか?』
「え、え、あ……」
 
 電話の向こう側の母性溢れる声に、胸がだんだんあたたかくなる。
 察しがよくてとても助かるけれど、真智叔父奥さんの母性がとても心地いい。
 ダメだよ、甘えたくなる。
 でも、今回は命がかかっているし、数日だけ甘えさせてもらおう。
 いいよね、三日くらい。
 幼女だし、子どもだし。
 
「あの、はい。それじゃあ……三日間だけお世話になってもいいでしょうか?」
『三日で大丈夫なの?』
「とにかく今日、本家がなにか、あるらしくて。師匠に避難しなさいと。今私が棲んでいるのは千頭山(せんずやま)家の別邸なので……すぐに捕まってしまうというか……」
『避難ということね。大丈夫よ。迎えに行きましょうか?』
「いえ、(りん)と一緒に行きます」
『わかりました。準備だけしておきますね』
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
 
 チン、と黒電話の受話器を置くとそんな音がする。
 そして一呼吸。
 すぐに布団を干すのを終えて家に入ってきた(りん)に真智の家に避難することになったと報告。
 とりあえず三日間。
 
「では、すぐに三日分のお着替えを用意いたしますね」
「ありがとう」

 (りん)、なんてシゴデキの女……!
 すぐに三日分の着替えと予備、お土産に漬物と焼き菓子を持たせてくれた。
 一応、除霊道具も持っていこうと思ったが秋月に「それがあったらやろうとするだろう。錫杖だけ持って行きなさい」と言われる。
 はぁい。

「秋月様もこうおっしゃっておりますから、お鈴や聖水などは置いて行ってください。(りん)が隠しておきますから」
「か、隠すの?」
「はい。奥様のことですから……」

 と、目を伏せる(りん)
 あ、ああ……そうね、六歳の私を殴り倒すような鬼ババアだ。
 私の私物だってゴミ置き場に捨ててこいとでも使用人に言いそう。

「わ、わかった。任せるね」
「では、行きましょうか」
「え!? 私一人で行けるよ……!?」
「いけません」

 にこり。
 見下ろしてくる(りん)の、あまりの絶対零度の笑顔。
 ああ、やばぁい。
 こんな(りん)は見たことがなぁい。

「お嬢様……霊力が今、ないんですよ? また昨日のように倒れて動けなくなるかもしれないんですよ? 一人でお出かけなんて絶対いけません……!」
「あ、あ……は、はぁい」
「本当だよ」

 秋月にも呆れた顔をされた。
 (りん)に怒られるなんて……。
 そんなに心配させてしまっていたなんて。
 ご、ごめんなさぁい。

「まあ、しかし(りん)がそこまで我を出せるようになったのは驚いたな」
「え、あっ……も、申し訳ありません、お嬢様……。で、でもでも……お嬢様には安全に過ごしていただきたいですし……あの……」
「大丈夫よ、(りん)。ちゃんと伝わっているわ。心配ばかりかけてごめんなさい」
「そそそそんな!」

 秋月がしみじみと言うので、私も『言われてみればそうだな』と感心した。
 (りん)、この屋敷に来たばかりの時はおどおどもじもじ。
 自我なんて出さない、俯いてばかりだった。
 私のことを叱りつけるほど自我が現れているのはいいことだよね。
 秋月もなんとなく、嬉しそう。

「そろそろいいのかもしれないね……」
「「?」」
「今日のところは宇治家(うじいえ)の家に保護してもらうといい。本家の方は僕の分霊が見ておくから」
「はい。よろしくお願いします。それでは行ってまいります」
「行って来ます」

 本家の様子、確かに気になるしね。
 別邸のことも本家のことも一応秋月に任せて、私と(りん)は真智の家に向かう。
 お腹を撫でると、(りん)が「おにぎりを握って来たので食べてくださいね」と手渡してくれた。
 ちなみに、(りん)の手には真智の家へのお土産の他に重箱。
 私の朝ご飯らしい。
 こんなにたくさん作っておいてくれたのか。
 感謝しかない。