ホラー系乙女ゲームの悪役令嬢はVtuberになって破滅エンドを回避したい


「ふああああ……。はあ……昨日はひどい目に遭った」
 
 まあ、自業自得なのだけれど。
 布団から出て背伸びをする。
 布団は畳んでおく。
 幼女、力ないので、(りん)に布団を干してもらう。
 昨日、霊力を動画に込めすぎて使い果たして大変だった。
 秋月にはお説教されるし、体はいくら食べても満足しないしで朝一番お腹が鳴る。
 嘘でしょぉ? まだお腹が鳴るのぉ?
 
「ううう……朝はいつもお腹空いているものだけれど、昨日あれだけ食べたのにまだお腹が減っているなんて……霊力空っぽになるってこんなに代償が大きかったなんて思わなかった」
 
 本当に、心底反省した。
 私自身の霊力量が、そのまま摂取カロリーに関係するということがわかったのだがまさかここまで必要だとは思わなかったのだもの。
 ゲームだったら今の自分の霊力量が可視化されるのになあ、と思って目を閉じると、なんか右上にケージみたいなものが見える。
 青いケージと、半分くらい黄色いケージ。
 幻覚かな?
 瞼を開けると消える。
 瞼を閉じたらまた見えた。
 
「…………え、えーと……気のせい……」
 
 もう一度瞼を開け、もう一度閉じて確認したら見える。
 つまり、気のせいではないみたい。
 これって私だけ?
 それとも他の人も見えるの?
 まるでゲーム画面のような――ゲームの……。
 
「『宵闇の光はラピスラズリの導きで』」
 
 そうだ、Vtuberのガワが手に入って危うく忘れるところだった。
 私、千頭山(せんずやま)真宵(まよい)は『宵闇の光はラピスラズリの導きで』の公式悪役令嬢。
 この世界って、本当にゲームなの?
 だとしたらゲームの強制力かなにかが働き始めている?
 私を孤立無援の呪具人形の悪役令嬢にするために?
 動き出したの?
 だから昨日あれだけ食べたのに霊力が戻らない?
 
「ふ、は……はあ……っ」
 
 息がしづらい。
 胸が痛い。
 このまま霊力が、戻らなかったら……?
 私の身を守るどころか、(りん)も本家に戻されるかもしれない。
 そしてゲームの通りに……。
 そ、そんなの嫌。
 体がガクガク震えて、寒くなる。
 夏なのに、冷房が効きすぎているわけでもないのに。
 
「お嬢様、おはようございます。今日もお腹空いていますか?」
「り、(りん)……わ、私……」
「どうかしたのですか? お部屋入りますね?」
 
 襖の向こうから声をかけられ、力なく答える。
 すると(りん)が心配して入ってきてくれた。
 私の顔を見るなり、着替えもまだなことに驚いたのか駆け寄ってくる。
 そしてなにを思ったか、私の頭を抱き締めてきた。
 
「大丈夫ですよ、お嬢様。すぐに霊力は戻ります。昨日頑張りすぎてしまったから、体がお休みするようにまだ戻らないだけです。お嬢様が毎日頑張っているから、頑張りすぎだよって体が言っているんです。(りん)がいっぱい美味しくて栄養のあるご飯を作るので、遠慮せずにいっぱいいっぱい食べてくださいね」
「っり、(りん)……ううう……」
 
 (りん)、優しい。
 頭を撫でてもらい、(りん)の体温を感じていたら次第に落ち着いてきた。
 そうか、働きすぎか。
 確かに小学一年生女児なのに、遊んではいない。
 あれ? 確かに私って動画編集やVtuberのことばかりで自分の趣味の時間とか遊ぶ時間とか、今までなかったかも。
 夏祭りも結局は動画撮影しちゃったし。
 でも、Vtuber関連のことは趣味みたいなものだし、普通に楽しいし。
 
「お腹が空いている時は悲しいことばかり考えてしまいますから仕方がありません。さあ、お着替えして、お顔を洗ってきてくださいませ。もう朝ご飯はできておりますから。追加で色々お作りします。昨日作れなかったゆで卵入りのハンバーグも作ってありますからね」
「ほ、ほんとう? (りん)のゆで卵入りハンバーグ、だいすき」
「お嬢様がそう言ってくださるから、(りん)はお料理がどんどん楽しくなるんですよ」
 
 え、っと驚いて顔を上げる。
 いや、だって作ってくれた人に美味しいと感想を言うのもお礼を言うのも当たり前のこと。
 本家は厨房担当の料理人が雇われていたから、(りん)は私と別邸に来るまで自分のまかない飯くらいしか作ってこなかった。
 それがあっという間にここまで上手くなっているのだから、(りん)の才能だと思っていたのだけれど……。
 私が感想を言うのも、美味しそうに食べる顔も、全部やる気に変わるのだそう。
 確かに、そういうのって『また頑張ろう』とか『もっと頑張ろう』っていう気持ちになるものだよね。
 私も――。
 前世の世界で、たくさんの、様々なVtuberにいつも元気をもらっていた。
 毎日楽しくて、配信してもらえるだけでもありがたいのにリスナーのことまで考えてくれるVtuberばっかりで、もう何人でも推したい。
 中でもやっぱり応援したくなるのは事務所の先輩ライバーに恋する織星(おりほし)ハルトくん。
 頑張る人を応援するのが楽しい。
 そういうモノなんじゃない?
 ああ――思い出した。
 そうだよ、私頑張る人を応援するのが好きなんだ。
 特に恋を頑張る人を。
 今世で私がVtuberをやりたい、と思ったのは千頭山(せんずやま)真宵(まよい)としての破滅ルート回避のため。
 じゃあ、私の……この目を瞑った時に見えるバナーは――。
 
「ねえ、(りん)は目を閉じると棒が見えたりする? 私、急に目を閉じると横向きの棒が見えるようになったの」
「棒? ですか? わからないです」
「そ、そうなんだ……」
「秋月様に聞きしてみましょうか」
「……うん」