ホラー系乙女ゲームの悪役令嬢はVtuberになって破滅エンドを回避したい


「あ、もうこんな時間……疲れたぁー」
 
 気がつくと昼の三時過ぎ。
 しまった、完全にお昼を食いっぱぐれている。
 せっかく(りん)が作ってくれたそうめんを、まだ食べられていない。
 背伸びをしてひとあくび。
 目をゴシゴシ擦ってから、空になったコップとポテトのなくなったお皿を持ってパソコンをスリープにする。
 立ち上がってキッチンに行って、お水のおかわりを入れお皿は食洗機の中に。
 冷蔵庫にラップをかけてしまってあったそうめんとお汁をテーブルに持って行く。
 お箸も食器棚から取り出し、ご飯の準備万端~!
 
「いっただっきま~~~す! うーーーん! 美味しい~! トマトの酸味がオリーブオイルでまろやかになりつつ爽やかさは残したまま、のど越しのいいそうめんと相まって最高~。野菜が嫌いな子どもにもこれなら大好評間違いなし。…………あ」
 
 ずっと実況していたせいでご飯を食べながらも食レポしてしまった。
 まあ、(りん)にレシピ紹介チャンネルを作る相談の時、私が食レポ係になればいいか。
 なんか、まだデビュー前だというのに職業病の片鱗を感じた。
 
「とりあえず林編はほぼ終わったから、そろそろチャンネル解説を行いたいわね。林編は十本。お経動画と、歌みたで二本作れるから……次の橋編の編集も始めつつ夏祭り動画も編集に手をつけておきたいわよね。チャンネルを作るには――真智の家に行かないと」
 
 申し訳ないけれどネットを繋いでいる真智の家でパソコンを使わせてもらう約束。
 一夜さんのところでもいいけれど、十夜の家は私と十夜を結婚させようとしているもん、できるだけ恩を受けたくないのよね。
 真智の家は、私にそういうことを言わない。
 そういう意味では本当に居心地がいい。
 真智と真智叔父夫婦の関係性もどんどんよくなっているから、そこに入れてもらうのはなんだか居心地の悪さはあるけれど。
 仲良し家族の中の異物って感じで。
 でもやっぱり真智が子どもらしく幸せそうに笑っている姿を見るのは私も幸せな気持ちというか、安堵の気持ちになるからそれを近くで眺められるのはオタク冥利に尽きるのだけれど。
 推し、幸せであれ――。
 
「ごちそうさまでしたー」
 
 とはいえ、やることは多い。
 林編が終わったらお経動画を撮ろう。
 やっぱり秋月(あきつき)マヨの全身も見てほしい。
 だって可愛いでしょ~?
 細かく動くし、デザインも可愛いし!
 見て~、可愛いでしょ~って自慢したい!
 午前中林編をガッツリ実況していたから上半身はさすがに見慣れてきているけれど。
 全身を見てほしいじゃない。
 せっかく可愛いお衣装で仕立てていただいたんだもの!
 よーし、午後はお経動画撮っちゃおう~!
 可愛い秋月(あきつき)マヨの全身を堪能しながらお払いだよ~~~!
 
「~~~~」
 
 というわけで秋月(あきつき)マヨの全身を映しながらお経を読む。
 読みながら気づいたけれど、読んでいる時傾いたりできないからほぼ立ち絵だな……。
 まあいいか。
 余計なことを考えながら読んでいると効果が出ないかもしれない。
 動画を見た人の周りにいる陰の気を祓い、怨霊悪霊悪魔は――ぶっ飛べ。
 私の前に来たら殺す。
 私の動画を見ている人たちに攻撃しようとしているやつらはみんなぶっ飛べ。
 私の前に来い。
 殺す。
 この世から消し飛ばして、輪廻の輪っかの中にぶち込んでやる。
 そのまま地獄で罪を償え。
 という殺意の念をガッツリ込める。
 
「……………………はあああああ~~~……」
 
 録画停止ボタンを押してから、座布団の上に横たわる。
 動画に気を全力込めしたからmettya
 めっちゃ疲れたぁぁぁあ~~~。
 外だったら絶対に無理だわ、これ。
 っていうか、さっきご飯を食べたばかりなのに急にお腹空いてきた。
 体の中の(えいよう)を動画に全部ぶち込んだから、体の中が空っぽになっちゃったんだ。
 家の中は結界の中だから安全だけれど、急いでなにか食べないと動けなくなる。
 気を使うとこんなにお腹が空いて動けなくなるなんて。
 話には聞いていたけれど、実際経験してみると想像以上にしんどい。
 なんかガッツリしたものを食べたい。
 カツ丼とか、肉厚ステーキとか……!

「り、(りん)……今日のお夕飯、ガッツリ系お肉が、いい……」

 と、メールで送って、一旦倒れる。
 ぐううう、とお腹まで鳴り始めた。
 ずる、ずると無理やり匍匐前進でキッチンに向かう。
 くっ……こんなことならさっきのポテチ、少し残しておけばよかった。
 塩味が美味しくて、つい……!
 気がついたらお皿の中空っぽになってた。
 ポテチ、美味すぎて消費が秒。

「はあ、はあ、はあ……やっと辿り着いた」

 棚の中にあるカップラーメンを力の入らない手でなんとか取得。
 蓋を開けてお湯をポットから出す。
 ポットの蓋を押す力もなく、お湯を出すために精一杯、今までの自分でも信じられないくらいに力を搾り出した気がする。

「う、うおおおおっ! …………あ、乗ればいいんだ」

 ポットは私でも届くようにと床に置いて行ってもらっていた。
 カップラーメンを蛇口の真下に置いて、蓋に乗る。
 一応「うおー!」と気合いも入れて。
 無事にお湯が出た。
 ああ、でもあと三分待つのか……。

「はあ……もう一品……なにか、おやつ……」

 棚の中になにか入っていないかな?
 振り返るけれど、もう怠くて怠くて動けない。
 なにも考えたくない。
 眠い。
 でも、お腹が空きすぎて眠ることもできない……。