ホラー系乙女ゲームの悪役令嬢はVtuberになって破滅エンドを回避したい


「十夜は私なんかと違って家になんの問題もない、綺麗で優しくて強い奥さんをもらうべき。我が家はいつ問題解決するかどうかわからない。私も結婚は考えてない。旦那さんの迷惑になるから」
「迷惑ならないよ?」
「いいえ。なるのよ。その辺りもわかるような素敵な男の子になれば、私なんかよりもあなたに相応しい女の子がわかるはず。だから、そんなふうに言わないで。私、困ってしまうわ」
「……こまるの?」
「ええ、困るわ」
 
 日和(ひより)はともかく、十夜にはこれで伝わる気がする。
 だって十夜は素直ないい子だから。
 私が困ると言えば、無理に結婚を迫ってくることはないだろう。
 案の定「結婚しないの?」と困り顔で聞いてくる。
 
「私は結婚しないつもり。人の迷惑ならないよう生きたいから。十夜は素敵な人と結婚してね」
「でもぼく、マヨイちゃんのこと好き」
 
 ンクッ。
 ……小さい男の子のどストレートな『好き』の威力ヤベェ……!
 こりゃあ世の中のお母さんたちが男児を猫可愛がりする気持ちもわかる気がする……!
 しかし! 私はイケメンショタには屈指ない!
 さすがにショタ属性はないからね! いや、好きは好きだけれどリアルショタに手を出すのは犯罪だし。
 いくら私自身女児だとしてもね? 中身は成人女性ですから。
 さすがに小学生男児はちょっと範囲外といいますか。
 それで言うとゲームの中の攻略対象たちも前世の私からすると全員年下。
 マジで私はただの壁としてヒロインと攻略対象たちの恋を見守っているだけであった。
 胸キュンはするけどなんていうか、青春恋愛漫画を読んでいるような?
 そんな感じであって自分が恋している感じじゃないんだよねー。
 少なくとも私、織星(おりほし)くんのことも『先輩の女性ライバーに恋をしている』っていうところで応援していたから、そういう“壁”になるのが好きなんだろうな。
 自分自身が恋をするとかではなく。
 他人の恋を! 見ているのが! 好きなの!
 なのですまない、十夜。
 君の気持ちに応えるつもりはない――!
 もちろん、千頭山(せんずやま)けとして必要ならそれは結婚も仕方ないと思う。
 秋月と千頭山(せんずやま)家再興を約束しているしね。
 
「じゃあ、おとなになったらまた言うね!」
「あるぇ……?」
 
 私が説明した意味通じていない感じかなぁ?
 
「お嬢ちゃん、おぼっちゃん、親御さんと一緒ではないのかい?」
「「え?」」
 
 顔を上げると中年のおじさんが見下ろしていた。
 あ、このおじさん、ヤバい。
 目が。
 不思議なんだけれど、目を見た瞬間おっさんが考えていることがおっさん自身の声で“視える”。
『可愛い子』『親がいないならちょっと遊んであげよう』『女の子可愛い』『男の子も可愛い』『むちむちでつやつやのほっぺ』『向こうの人の少ない居場所に連れて行けば遊べるかな?』などなど。
 へ、変態だーーーー!
 
「知らない人と話しちゃだめなんだよ。いこう、マヨイちゃん」 
「うん!」
 
 超賛成!
 よかった、十夜がしっかり不審者に対して躾されていて。
 すぐに真智の叔父さん夫婦と合流して……って、いない!?
 人込みが増えている。
 夕方になるにつれて人が増えているんだ。
 しまった、十夜のお父さんたちもどこにいるのかわからない!
 (りん)も……!
 
「お父さんたちのところに連れてってあげるよ」
「いらない。おじさん悪いこと考えているから。ぼく、そういうのわかるから」
「えっ」
 
 十夜が振り返って、まっすぐにおっさんを見ながら言い放つ。
 おっさんは十夜にそう言われて、鼻をぶひっと鳴らしながらおののく。
 太めの人って本当に『ぶひっ』って音を鳴らすんだ……。

「私もおじさんがなにを考えているかわかるよ。おじさん、最低ですね」

 防犯ブザーを見せつけるように差し出すと、おっさんはまた『ぶひっ』と鼻を鳴らして二、三歩後ずさる。
 ちなみに、防犯ブザーとともに錫杖を握り締めた。
 あまり逆上させたら危ないから、威嚇だけで済ませるつもりだけれど。
 十夜に「行こう」と言って、手を繋いで、もう片方で錫杖を握り締めて屋台の灯りの多い方へと駆ける。
 しかし、後ろから急に首根っこを掴まれた。
 あのおっさん……!
 振り返ると、全然違う男。
 夏なのにマスクをしていて、目がギョロついてい。
 なに……誰!?
 十夜は……手を離してしまったから、驚いて振り返った瞬間だった。

「マヨイちゃん……!」
「んんん!?」

 口を塞がれて、そのまま小脇に抱えられて森の方と踵を返す男。
 中年の太った男もポカーン顔。
 ヤバい! ヤバい! これはヤバい!
 ――あっ。

『気をつけて』

 秋月が言っていた。
 あの鬼ババアが動きを見せている――と。
 この男、まさか鬼ババアの手の者!?
 なら、殴っても怒られないよねぇ!?
 そうよ、私は秋月に精神修行を受けている。
 きっとその前の私なら人を殴るなんて躊躇していた。
 でも命がかかっているのだ。
 “千頭山(せんずやま)真宵(まよい)”は。
 ここで殴らなきゃ、どんなふうに殺されるかわからない。
 私は殺される。
 もう二度と殺されてなるものか。
 そんな理不尽な……あんな理不尽な死を、二度と味わってたまるか!
 殺されるくらいなら殺す!
 私はもう、優しい人間なんかでいられないんだ!

「えええい!」
「いてえ!」

 狙いは股間!
 ここからでも、この長さの錫杖でも十分大ダメージを与えられる!