ホラー系乙女ゲームの悪役令嬢はVtuberになって破滅エンドを回避したい


 夏休みの宿題ドリルは終わったし、課題として出されているお経はもうとっくに覚えている。
 披露しろと言われたら余裕で披露できるから、今日はこのあとどうしようかなあ?
 秋月は本宅で鬼ババアたちの動向を探るために夕方の四時前には帰ってしまう。
 仕方がないから、動画の編集をやり直そうかな。
 ライブ2Dが完成したら動画に落とし込む予定だから、最初の一本目をチェックし直しておこう。
 ノートパソコンを出してきて、録画編集済みのデータを選択する。
 すると、映像の中に覚えのない黒い影。
 これ……霊だ。
 電子機器と霊は相性がいいと言われていたけれど、録画済み、編集済みの動画に入り込むとかあるんだ!?
 しかも、黒い影。
 悪意が強い霊だ。
 もっとよく視て、探る。
 ――林の悪霊だ。
 林の中心にいる悪霊が、電子機材と動画を通して脅しにきている。
 林の外周を浄化して動きづらくなっただけでなく、自分の力が削がれているとわかってこういう形で悪あがきをしているんだ。
 ふーん、そういうことをするんだ……じゃあここに使った力を私が浄化しても文句ないよね?

「〜〜〜〜」

 経本を取り出してきて、それに力を込めながら読み上げる。
 経本の力に自分の霊力を込めて動画に“声”という形で流し込むと、動画に入り込んでいた黒い影はゆっくり薄くなり、消えていく。
 危なかった。
 これ、動画を見た人にも変な影響が出るところだった。
 ライブ2Dが来たら結局は気づいていたと思うけれど、録画している最中に気づいてお祓いをするとか二度手間だったわ。
 今気づいてよかったぁ!

「って、待てよ? 最初の動画に入り込んでいるってことは、まさか他の動画にも入り込んでるんじゃ……!?」

 ふと気がついて、二本目、三本目の編集済みの動画も確認してみることにした。
 そうしたら、案の定!
 黒い影が入り込み、動画に映り込んでいるじゃああーーりませんかぁ!
 ウッッッッッザぁぁぁあ!
 悪あがきもいいところだが、自分の力を削ってまでこんな嫌がらせまがいのことするのに削られた力をさらに使うなんて……私が思っている以上に林の悪霊は追い詰められているのかも。
 まあ、容赦なく除霊するんだけれどね。
 そして一本目から四本目までの動画に、二度と悪霊がちょっかいを出せないように念入りに浄化……お祓いを行う。

「……ふう……!」

 四本目が終わったあたりで力が尽きる。
 緊急性が高く、危機迫る状況下ではないから今日はこの辺りで終わらせようかな。
 そろそろ(りん)も帰ってくる頃だろうし。
 なんというか、それでも嫌がらせとしては実に優秀な策だと思う。
 おかげで林の浄化に、今日は行けなさそうなんだもん。
 まあ、今日一日は夏休みの宿題ドリルに時間を使うと(すぐる)に連絡済みだからよかったけれど。
 それにしても明日は(すぐる)(りん)と林の中心に近い場所まで行って浄化を行うって話をしていたから、動画のお祓いの続きは明日以降かな。
 くっ、残り十本以上……だっっるぅーーーい!
 余計な仕事を増やしやがって!
 変な思念残されたらたまったものじゃない!
 視聴者さんが怯えて見てくれなかったらどう責任とってくれんのよ!?
 絶対許さん、あの林の悪霊!
 秋月も『悪霊悪魔は殺られる前に殺れ』って言ってたし、もうここまで人に面倒をかける悪霊は問答無用で処していいよね?
 秋月も言ってたもんね?
 強気で行けって教わったもん。
 もちろん時と場合によるけれど、悪霊、てめーは私を怒らせた。
 人が頑張って編集した動画にちょっかいをかけるなんて重罪以外の何者でもない。
 売られた喧嘩は買う。
 喧嘩を売ってきた悪霊悪魔に慈悲など不要。
 人の努力を踏み躙るやつは万死に値する。
 処す……!
 てめー、林の悪霊……首を洗って待ってろよ……!
 秋月に精神修行を受けた私に甘さはもうないわよ!

『ただいま帰りましたー……』
「あ、おかえりー」

 くぐもった声が玄関の方から聞こえてきて、立ち上がる。
 その前にノートパソコンの電源を落として、部屋のカーテンも引いて、襖を開けて玄関に急ぐ。

「おかえり、(りん)……ん?」
「こんにちは、初めまして」

 (りん)を出迎えに行くと、(りん)の隣にごっつい美人が立っていた。
 ごついっていうか、べらぼう?
 黒い髪を姫カットにした黒い学生服風のワンピースを着た、お姫様みたいなお嬢様。
 硬直した私に対して(りん)が手を向けて「えっと、大離神(おおりかみ)稲穂(いなほ)さんです」と紹介される。
 おっ――!

「は……初めまして! 千頭山(せんずやま)真宵(まよい)と申します……!」
「まあ、やっぱりあなたがそうなのね。いつも(りん)から話は聞いております。大離神(おおりかみ)稲穂(いなほ)です。弟があなたにとても真摯に叱られたと落ち込んでいたから、どうしても一目お会いしておきたくて」
「ふぉぇげ!?」

 弟……!? 誰のこと…………まさか、大離神(おおりかみ)日和(ひより)……!?
 弟!? 姉弟!? 大離神(おおりかみ)って苗字の家はいくつかあるから……いや、でも日和(ひより)は本家の跡取りで……姉、いた設定だった気がするけど……えっ、え!?

「急にごめんなさい。弟は日和(ひより)です。先日この近くの橋の浄化に同行したと話を聞いています。あの子、結界の外で村を一つ分浄化して『安倍晴明の生まれ変わり』と持て囃されて調子に乗っていたの。親兄弟で嗜めていたけれど、どうにも戻らなくて……。でも、あなたに叱られてからだいぶ考え方が変わったみたいで、すっかりおとなしくなったのです。だから、お礼を言いたくて」
「え? え? い、いいえ! 私……なにも言ってないです……よ!?」
「そんなことはないのよ。あの子、優秀すぎて最近は本当に人の心がわからない、理解しようとしない子になりつつあったの。それなのにあなたに叱られてからすっかり相手の気持ちを言葉で聞こうとする子になってね。歌にも深みが出てきたように思う。だから、ちゃんとお礼をしたかったの」

 思わず押し黙る。
 あの(・・)大離神(おおりかみ)日和(ひより)が……?
 私の言葉で、相手の気持ちを言葉で聞こうとしている?

「でも、霊力が高い人は……」
「そうね。霊力が高いと、相手の気持ちを感じ取れてしまう。でも、その気持ちなるまでの過程を、あの子は知ろうとし始めたのよ」

 真摯に人と向き合おうとし始めた、ってことなのか。
 本気で……本当に?