ホラー系乙女ゲームの悪役令嬢はVtuberになって破滅エンドを回避したい


 お互いにないものねだりをしている。
 (すぐる)はそれでも……私たちの安全のために苦手な日和を連れて来てくれたんだ。
 優しい。
 ありがたい。
 でも日和の気持ちを考えると少し居た堪れなくなる。
 ただ仲良くしたくて、今回の件も誘われたから来たのだろうに。
 でも、自分にないものを山のように持っている人と一緒にいて惨めな気持ちになるのをどうにかするとか、そんなの自分でなんとかできるものなのかな?
 根本的な考え方を変えるしかなくない?
 もしくは――諦める。
 霊能力者になるためもがいている(すぐる)には、絶対にそんなこと言いえないよ。
 じゃあ日和の方を変える?
 変えられる?
 もうこの人は自分の信念や価値観が確立している人だ。
 (すぐる)のために変えられる?
 変われる?
 というか、言って理解できる?
『宵闇の光はラピスラズリの導きで』の大離神(おおりかみ)日和(ひより)は誰になにを言われたところで自分の信念を曲げない人だった。
 それが大離神(おおりかみ)日和(ひより)の強さの根源であり、大離神(おおりかみ)日和(ひより)大離神(おおりかみ)日和(ひより)である証明。
 ――いや、それは成人した大離神(おおりかみ)日和(ひより)
 今目の前にいる幼少期の大離神(おおりかみ)日和(ひより)なら?
 
「日和さん。日和さんはなんでもできるし、霊力も強い。私よりも霊力がある日和さんには、霊力がほしくて修業をしている(すぐる)さんの気持ちは理解できますか? 理解できないと友達にはなれないと思います」
「き、気持ち? どういうこと?」
「相手の気持ちになって考える、です。日和さんは強くて、なんでもできるから……できない人の気持ちがわからない。わからないなら想像をするしかない。日和さんは想像したことがありますか?」
「できない人の気持ち……?」
 
 日和のお父さんは『陰陽師と歌手の二足の草鞋を目指していた人』ではあるが、陰陽師としての仕事で亡くなった。
 父の志を継いでいるのだから『できなかった無念』はわかるはずなのだ。
 
「できない人の気持ち。持っていない人の気持ち。妬み嫉みが生まれる始まりの感情。人間が誰しも持っているはずのもの。ほしいけれど得られないもどかしさを感じている、今の日和さんならきっと、想像して考えればわかるんじゃないでしょうか? 今の、日和さんなら……いえ、今の日和さんにしかわからないかもしれないです」
「今感じている、もどかしい気持ちを……(すぐる)も感じているということ?」
「ちょっと質は違うと思いますから、そこのところをしっかり考えてください。と、言っているんです。日和さんの今後の人生にもきっと、人の心を思い遣るということは必要になると思います。だから、考えてみてください」
 
 ゲームの中の十夜との関係も、日和が霊の気持ちが無視して強制浄化するからだ。
 霊にも生前のような心がある。
 霊が成仏する心を決める前に、無理やり。
 それが霊にとってもいいことだからと、独りよがりの判断で。
 根本的な問題はそれだ。
 今の、幼い日和ならもしかしたらわかるかもしれない。
 少し思案顔になった日和は、腕を組んで考え込む。
 息を吐き出す。
 
「今日のところは撤収しましょう。雲行きが怪しくなってきましたし、お二人も帰るのが遅くなってしまいます。(すぐる)さんもいいですか?」
「はい。今日はありがとうございました。次の修業にも是非同行させてください。……日和を連れてきたのは申し訳ありません。まさかここまで身勝手な行動をとるとは思わなかったので」
「大丈夫ですよ。日和さんが(すぐる)さんの気持ちをわかってくださるといいですね。もしも日和さんが(すぐる)さんの気持ちを理解してくれるようなら、引き続き修業に協力していただきましょう。やはり強力な霊能力者が近くにいると霊能力が開花しやすいですからね。私よりも強力な霊能力者である日和さんが近くにいてくだされば、より開花しやすくなるかもしれません」
「お嬢……。はい、わかりました」
 
 ん、んん……?
 なんで今、ジーンと感動したような表情になったんだ?
 よくわからんけど(すぐる)の私への呼び方が『お嬢』なのはもう固定なの?
 ま、まあいいけれども。
 いや、違和感がすごいんだけれども。
 
「――本当に小1?」
「へっ!? な、なにを言って……ソ、ソウデスケレドォ……? な、なんでそんなことを聞くんですかぁ……?」
「まあ、そうだよね。いや、なんだか大人と話している気分になって……」
 
 あ、危ねぇーーーー。
 子どもが相手だからつい。
 でも、それを言ったら日和だって小3じゃねーよ!
 
「こ、子どもだからこそ、今感じている不甲斐なさや未熟さは大事にしなければならないと思うのです。その……私の父は母を亡くしてすぐに外で女性を掴まえてきて家に入れました。私は祖母に認められず、自活を始めたんです。使用人の(りん)も一緒ですけれど。だから、私は父みたいなおとなにはならないために自分を戒め客観的に見るよう心がけているのです」
「へえ……」
 
 反面教師ってやつ。
 あんなおとなにはなろうとしてもなかなかなれない気はするけれど。
 なぜか日和と(すぐる)には感心したような表情をされる。
 感心するようなことじゃない。
 こんな家庭環境はクソだ。
 中身がおとなの記憶があるからこんな言い方をするけれど、小学一年生の女児がこんな生き方をするしかないなんて控えめに言っても異常だからね。