怯えながらもお店に入る。
十夜はにこにこ上機嫌。
まあ、十夜はゲーム内でもふわふわほわほわだったからこれは別に通常運転。
問題はやっぱり御愚間英だよぉ。
怖いよぉ〜!
「すぐるちゃーん、おじゃましまーす」
「はいはーい。らっしゃいまっせっーーーー!」
ああ、ダメそうだ。
居酒屋みたいな返事。
現実逃避をしたい。
こんな静まり返った、穏やかなBGMが流れる店内で、なんでこんなコールが流れるんねん。
「しゃっしゃっしゃっしゃせー!」
「しゃせぇーーー!」
「お! 善岩寺家の末っ子坊主じゃねぇか! よく来たな!」
「こんにちは、おじさん、おばさん、たすくおにいさん」
「お! 女の子じゃねぇか! 彼女かぁ!?」
「そうだよー」
「違いますよ!?」
なにを言うとるこの十夜!?
最近妙に手を繋いできたりすると思ってたけど、親の戯言を間に受けているの!?
やめてぇ……! 善岩寺家から婚約の申し込みとかきたら鬼ババアにバレて本家に連れ戻されかねないってえええええ!
そうなったら即、破滅エンドルートだってええええ!
「つまり! 婚約指輪をご所望ってことかい!?」
「待っててね! 装飾品店の方に連絡を取るからねー!」
「違います! 違います! いらないです! そうじゃないです! お鈴……お鈴を見にきたんです!」
「「「お鈴!」」」
「お鈴だったらこっちでごさいやぁす!」
御愚間両親と兄らしき人々がジョ◯ョ立ちで叫ぶ。
その間からショタ英がすかさず木箱の中に入っているお鈴を何種類かガラスカウンターの上に並べていく。
ああ……! ゲームの中の御愚間英そのもの……!
お前幼少期からそんなだったんかーい!
「こちらのお鈴、なんと50:50比率で銅と霊石が混ぜ込まれ作られた一級品! お値段なんと初回割引価格で十五万! 税抜!」
「おいおい、英。さすがにお前と同い年くらいの子にその割合は重すぎる。それよりも銅と霊石の割合70:30のこちらのお鈴の方がいいでしょう! 値段もお手頃価格、九万八千円!」
「婚約の贈り物なのかもしれないでしょう!? それならオーダーメイドもおすすめよ! こちらの機械で検査すれば、お嬢さんの霊力量と霊力濃度を測り最適なお鈴の割合が導き出せます!」
「ついでに聖水のオリジナルブレンドもできちゃうぜ! 別途一万円!」
「わあー、どれもおもしろそぉー。どれにする? まよいちゃん」
力なく「う、うん」と返事をするのがせいいっぱい。
この圧の中、にこにこしながら『おもしろそー』は強者かな?
信じ難いのだが、攻略対象御愚間英はこのようなテンションが永遠に続く。
リアルでいたら暑苦しくて一緒にいられないでしょって思うのだが、二人きりの時は『喋るのが億劫だから』と無口で寡黙な男になる。
元々おとなしい性格なのだろうが、商売人として家族のテンションに合わせているらしい。
そのギャップや家族に合わせる優しさに胸キュンするリスナーは多く、VCが人気箱……Vtuber事務所コメットプロダクションのマオ・ロセーラジャッジメント。
低めのハイテンションキャラではあるものの、やはりあの声に囁かれたいリスナーは多い。
そこからかなり大量に流れていたため、中の人ファンによる多くの支持を集めた攻略対象。
なんなら御愚間英と同じくコメプロのVtuber、川嶋剛志がVCの大離神日和はジャケットセンターの十夜よりもファンが多かったかもしれない。
Vtuber事務所は多くあったが、コメプロはタレント事務所直轄だったせいかアイドルファンから流れてきたリスナーが多く、また所属ライバーの癖強さで完全に有名な人気箱の地位を確立し始めていた事務所。
そこから声優として参戦してきた、ということである意味目玉のキャラだったのだ。
……センター攻略対象の十夜を差し置いてな!
いや、私も好きだよ? コメプロ。
普通に見てたよ?
コメプロの男性Vtuberは全員チャンネル登録してたよ?
人間離れしてるキャラすぎて毎回面白く拝見してたよ。
でも私は同じ事務所の先輩にガチ恋して右往左往している『りゅうせいぐん☆』の織星ハルトくんに毎回キュンキュンが止まらなくて、もしかしたら今日はなにか進展が聞けるかも……! という期待から織星ハルトの配信を毎回毎回日参していたというかー!
……まあ、それを言ったらショタ英も別に声自体はまだマオ・ロセーラジャッジメントじゃないしね。
無理してこのキャラを、この年齢の時から演じていたのかと思うと胸が痛くなるぐらいだしね?
「すっごい悩んでるね」
「な、悩むよ……! 十夜のお母さんがお金出してくれるんでしょ……!」
「好きなものを選びなー、って、ママ言ってたよー?」
「だとしてもだよっ!」
能天気に『これなんかいいんじゃないー?』と一番高いお鈴を指差す十夜の金銭感覚が心配になる。
まあね! お金持ちだもんね!
でもこちとら二人分の学費食費生活費諸々全部合わせて一千万円で一年間生活しなければならないのだ。
税理士さんは無事に真智のおじさんから紹介してもらえて、真智のおじさんを通して一緒にうちの家庭も面倒を見てもらえることにはなったけれどそれはそれとしてできる限り節約は必要でしょ!
Vtuberを始める費用に、予想以上の金額がかかっている。
本来なら多分数十万くらいかかりそうなライブ2D制作費が、一夜さんの『バ美肉受肉ぅー!』の熱意のおかげで浮いたとはいえ!
機材諸々、まだ手配が終わっていない!
お鈴……そりゃお高いのがほしいけれどさあ!
十夜母にそこまで高いものを買ってもらったら嫁ぎ先が決まりそうでさあ!
なんか最近の十夜を見てても様子がおかしいしさああああ!



