この世界でも酒、塩は場を清める効果を持つ。
それに清水、清酒、塩、少しのハーブを混ぜてお清めの聖水を作るのは初代千頭山家の当主がやったことらしい。
秋月曰く『人によって混ぜる割合や、ハーブの種類などは異なるよ。自分の気に合わせて配合するのが一番だからね。そういうのも自分で研究して、作っていかなければならない。大変だけれど、自分の身を守ることにも繋がるから追求はすべき』と言っていた。
その通りだと思う。
自分用の、自分だけの聖水を作る。
今は無理だけど、粦が二十歳になったら……!
「あれ……なんか」
「どうした?」
「林の中に建物が見える」
「ああ、祠だろ」
「祠!?」
私が想像している祠と規模が違うんだが!?
な、なんか小さな御殿みたいなのがあるよ!?
あれが祠!?
私の祠の概念が覆される!
百年、世界と断絶した世界観の祠ってあんなにでっかくなるの……!?
「祠って神様を祀るための建物だよね?」
「土地を浄化するための拠点だろ。神様を祀る祠はもっとデカくて豪華だろ」
「そうなの!?」
「うん」
思い切り頷かれて、がっくりする。
そ、そうなんだー。
でもさすがに前世よりも色々違うところがあるんだなぁ、こういう、建物とか。
まあ、百年世界と断絶してたらこうなるのか。
世界大戦とかなかったのかな?
「でもなんで急に見えてきたのかなー?」
「霊が密集していると視界がぼやけて本来あるものが見えなくなることがあるって、おじさんが言ってた」
「へー、そうなんだー。じゃあじょーかが進んだから見えるようになったのかなぁ」
「そうなんじゃね? おれたちも役に立ってんのかな?」
「絶対立ってるよ! 空気が澄んできたもん。もう少し近づいても大丈夫じゃない?」
「じゃあ、もう少し近づいてみるか」
今までの感覚から、もう少し林に近づいて浄化をしてもいいと思う。
あまり近づきすぎると悪霊に気がつかれてしまうから、入らないように周辺を周る。
周辺をぐるぐる回りながら、林の外周を浄化するだけでかなり助けになるはず。
「〜〜〜〜」
お経が聞こえる。
お鈴の音と、お香の香り。
聖水を撒き、引き続き浄化を続ける私たち。
千頭山家が祈祷師――サポート職だと聞いたあとだとどうすることが一番いいのか、自分にはなにが適性なのかがなんとなく掴めた気がしたのだ。
私の生まれた家はサポートが得意。
なら、私が今できることは浄化して気の流れを整えることなんだよね。
それなら得意な気がする。
ここから、ここまで……林の周り、祠への道を真っ直ぐに――浄化。
私の気をお香の煙とお鈴の音に混ぜて、広げる!
不思議なんだけど、家で使っているお香よりも私の霊力がよく“乗る”感じ。
だから今までよりも自分の中の霊力を、自分を護る分以外を注ぐことができた。
自分でも信じられないくらい、特にお鈴の音に自分の霊力が乗る感覚がすごい。
私の霊力って音と相性がいいのか?
だったら私用のお鈴がほしいな。
こういうのどこで手に入るんだろう?
そんなことを考えながら、無意識にお経を口遊み始めた。
私だって、伊達に家の裏の林の外周を浄化完了したんだ。
浄化してからは気の流れを修正。
澱んだ空気を祠に向かって伸ばして浄化した“道”から、林全体に少しずつ弱めていく。
これ、悪霊にも絶対効くぞー。
澱んだ空気に風穴開けてやったんだから。
清らかで浄化された空気が作った道から祠に直送されてんだ。
祠から林全体に浄化された空気が行き渡るまで、お鈴とお経を唱え続ける。
案の定、お香の煙の量が増えていく。
その分消費も早いけれど、林全体に住む霊たちが少しずつ、私のお経に耳を傾けてくれるようになった。
『助けて』
『もう、苦しいのは……』
『浮かばれたい』
え? これ……まさか、霊の声……?
初めて聞こえた……!
顔を上げると、白い人影がわらわらと近づいてくる。
十人、二十人くらいいない?
『助けて、怖い』
「待っててね」
そうだよね、悪霊が三体もいる森が落ち着ける場所なわけがないよね。
私のお経で浮かばれるのなら、どうか浮かばれて、成仏してください。
そんな祈りを込めて、お経を読む。
私の祈りとお経で成仏する魂が、一つでも多くありますように――。
「〜〜〜〜」
目を開ける。
パチパチとした小さな電撃のような金色の光が周りに降り注ぐ。
こんなに綺麗で、安らぐ光……初めて見た。
もしかして、これが成仏する魂の輝き?
『ありがとう……』
「っ……!?」
瞬きをすると一人だけではなく、複数の魂が光に導かれるように空へと上がっていくのが見える。
聞こえた声は、聞き間違いじゃないよね?
……理不尽に反転した巫女の祟りで殺されて、百年もここで彷徨っていたかもしれない霊たちが、やっと成仏することを決めた理由は林に住むようになった悪霊に怯えたから……。
可哀想。
こんな場所で悪霊に怯えて、逃げるように成仏を選ぶなんて。
理不尽だね。
理不尽だ。
それでも、成仏できたのはいいこと、だよね?
「〜〜〜〜」
もう一度目を閉じて、お経を唱え始める。
一人でも多くの“人”が、成仏するように祈りを込めて読む。
自分の中の霊力がゴリゴリに減っていくけれど、広範囲を浄化しているから仕方ない。
そして私のお経で霊が成仏している体と思うと、減っていく感覚が嬉しくもあった。
『ありがとう、ありがとう……』
『これで……報われる』
そんなふうにいう声が聞こえるんだもん。
限界ギリギリまで頑張っちゃうよ……!



