強く頷く十夜母。
そして、目に見えて顔色が悪くなる。
六家の中で千頭山家は一番位が高いらしいもんね。
その次が名門ともいうべき安倍家と、その分家だか弟子の家だかが発展した大離神家。
一番下が新参の真智の家、宇治家家。
じゃあ、自然と十夜の家――善岩寺家は四番目か五番目。
序列で言うと、そのくらいになってしまう。
善岩寺家も千頭山家に手を出すのは、軽率にできるとじゃないって感じなのかな。
「そうなの……なにも聞いてなかったから、驚いたわ。叔父さんには他になにか言われた?」
「もしマヨイの家のことを、他の家の人が聞きたそうだったらおじさんに聞いてって言ってたよ。マヨイのししょーのことは一回会って話したい〜って言ってたけど……」
「難しいと思う。師匠、本家からあんまり出られないから」
「複雑なご家庭事情があるのね」
はい。それはもう。
とは言えず、こくり、と頷くに留まる。
これで察していただければと思う。
全部話してもいいけれど、あまりプラスの感情になる話ではないから、浄化前の土地の前では話さない方がいいだろう。
そしてそれは、プロの十夜母にも伝わっている。
「わかったわ。それじゃあまずは真宵さんに土地の浄化を手伝ってもらいましょう。でも、ここから先は霊媒師の仕事だから無理はしないでね。真宵さんの家は祈祷師なのだし」
「は、はい」
はい、と返事はしたものの、そういえばそうだった。
しかし、職種を言われたところで『やることは同じじゃないの?』と首を傾げる。
「れーばいしってきとーしとなんか違うのか?」
ナイス、真智。
私も今ちょうどそれを思っていた。
前世では普通のOLやってたから、こっちの業界のそういう職種の差がわからない。
霊媒師と祈祷師ってなにが違うの?
悪魔祓い師はわかりやすい。
悪魔を祓う、専門家。
じゃあ霊媒師と祈祷師は?
「霊媒師は霊を下ろしたり、触れたりして霊の気持ちを理解したり霊の心残りを聴いて、霊の代弁をしてあげたりする職業よ。祈祷師は結界を張ったり、祈りを捧げて祟りを鎮めたり、願いが叶うお手伝いをしたり、気の流れを整えたりするのよ。霊媒師にも祈祷師と同じことはできるし、祈祷師にも霊媒師と同じことはできるけれど、やはり専門職がやった方が効果がとても大きいわ。だから仕事する時は一緒に仕事をすると効率がいいのよ」
「「「へーーーー」」」
なるほど、そう説明されると結構違うものだ。
違うというよりも、実は役割分担がしっかりとしている。
悪魔祓い師は悪魔になったモノを祓う専門家。
どちらかというと攻撃が主体。
祈祷師は結界を張ったり、祈りを捧げて祟りを鎮めたり、気の流れを整えるサポート主体。
霊媒師は悪霊や悪魔になる前の霊たちを鎮める専門家。
どちらかというと予防が主体。
ただし、個人の性質によっては戦う力を取り入れたり守りの力を取り入れたりして、自己流に仕上げることができる。
できることの多い個人ほどこの世界観では『優秀』であり『戦力』なのだ。
反転巫女のこともあるから、祈祷師の千頭山家が重宝されているのもよくわかる。
結界を張ったり、祟りを鎮めたり、気の流れを整えるのは基礎中の基礎。
他の職業――特にサポートが必要な家は絶対に一家に一人はほしいはず。
お嫁さんに対して超一途という安倍家や大離神家に千頭山家の女性がよく嫁いでいた話、仕事の面、役割の面から見たら結構妥当なのかもしれない。
「真宵さんはこの歳で浄化ができるのでしょう? 引くて数多になるでしょうねぇー。いや、本当、あとで詳しくは聞くけれど……可能ならぜひうちにお嫁に来てほしいわー。安倍家や大離神家にバレる前に」
バレる前にって……。
「あ、いけない。お話が楽しくて浄化の予定時間が押しちゃってる。それじゃあママ、浄化に行ってくるわね。三人はここにいて、このお鈴を鳴らしながらお香を扇で林に向かってパタパタしておいてくれる?」
「はーい」
「お香パタパタはどんな効果があるのー? ママー」
「お香とお鈴は合わせて使うことで結界と浄化を同時にできるのよ。負の気を纏う霊や悪霊や悪魔は、こういう音や匂いが嫌いなの。だから自分の身を守るためにも、ここでお鈴を鳴らして、お香を焚いていてね。ママがパパーっと、悪霊をやっつけてくるからねー」
「うん! 頑張ってね、ママー!」
拳を掲げる十夜母。
意気揚々と林の方へ向かうのを見送って、私たちは十夜母がつけてくれたお香を林の方へと扇を使って流す。
なんだか、風が吹いてきたせいでお香の煙が帰ってきてしまう。
こういうのも霊障――霊による現象なのでは……。
悪霊は弱めだが、霊の数が半端ない。
百は超えている。
半分別世界みたい。
だから相当、お香の煙と香りを嫌がっているのだろうが……煙が届かないと浄化には程遠い。
自分で持ってきた清めた水に塩を少し混ぜたものを周りに撒く。
これは秋月に教えてもらった、清めの塩水。
塩には私の気が入りやすいよう、粦に手伝ってもらいながら火を通して固めた。
火で炙ることで火の気も入るしね。
だから塩水を撒く時に自分の気を込める。
よし、周りの負の気が面白いぐらい引いていく。
「あれ……なんか空気が違う」
「本当だ。お前なんかした?」
「師匠に作り方を教えてもらった塩水を撒いたの。本当はこれに清酒も混ぜる予定だったんだけれど……子どもだけだとお酒が買えないからね」
「「へーーー」」



