ホラー系乙女ゲームの悪役令嬢はVtuberになって破滅エンドを回避したい


「Vtuberというのは――」
 
 ひとまずVtuberについての説明。
 なぜそれを目指すのかを説明。
 家の恥については伏せつつ、ともかく自分が自立をするために必要である旨を力説。
 興味深そうに聞いてくれた十夜家族は、私の説明が終わると顔を見合わせる。
 
「新しい試みなのね。面白そうだわ。お母さんは賛成! 一夜、協力してあげなさいな」
「確かに自分の絵が動いて喋るなんてめちゃくちゃ夢がある! ぜひやらせてほしい!」
「あ、あ、あ、あのあの、ちゃんとお仕事として依頼したいです。部位ごとに動かせるように描いていただくと思うので、そういうお話もしなければと思いますし……」
「そのプログラミングも是非やらせてくれないかな? 俺がやってみたかったのはそういうものなんだ! 俺、美少女になりたいんだ!!」
 
 話の流れが変わってきたぞこれ。
 
「一夜お兄ちゃん、小さい頃からの夢だもんね」
「それなのにどうして筋肉を鍛えたのか疑問ではあるけれども」
「なんの話し~?」
「おお、十夜!」
 
 私服に着替えた善岩寺十夜(ぜんがんじとうや)
 なんの躊躇も名酔いもなく私の隣に座り、にこにこ「もうみんなと仲良くなったのー? まよいちゃんすごーい」と笑みを向けてくる。
 くっ……眩しい!
 これがセンターを務める攻略対象のショタ時代!
 すでにセンターの貫禄がある……!

「実は十夜の連れてきてくれた千頭山(せんずやま)のお嬢さんが面白い提案をしてくれたんだ! こりゃあ面白い仕事ができそうだぞ!」
「本当ー? よかったねぇー」
「俺は美少女になるぞ!」
「うんうんー、頑張って〜」
「なに言ってんだ! お前も美少女になるって言えよ!」
「え? あ、あん、いいよー」

 話の流れがだいぶ思っていた方向とは違う方向に全力疾走し始めたぞ。

「よぉおおおし! お兄ちゃんイケる気がしてきた! 早速仕事に取りかかる! ご希望のキャラデザをやらせていただこう! とりあえずラフを! 描かせていただく!」
「は、はい」
「モチーフは!? 何歳くらいで、何センチくらいで、色合いは!? スカート、ズボン、髪型、今とは異なる姿と言っていたがこんな感じかな!?」
「あ、あ、あ、あっ」

 私が口を挟む間もなく、猛ダッシュで二階に駆け上がり、スケッチブックを持って階段から転げ落ちてきた一夜さん。
 やばい、勢いのすべてがやばい。
 すごい勢いで何枚も美少女のイラストを生成していくマッチョの姿には、言葉が出てこなくなる。

「とりあえず希望デザインに近い子を選んでくれ! そこから改良していこう!」
「ずるい! それならあたしも美少女になりたい!」
「僕も一夜兄さんのイラストで美少女になろうかな」
「じゃあお母さんも!」
「お父さんも美少女になろうかな!」

 おおおん!?
 話がでかくなってきたぞ!?
 っていうか、善岩寺(ぜんがんじ)家マジか!?
 家族総出で美少女になろうとしてるマジか!?
 生成され続けるイラストを一枚一枚集めて眺めていく。
 うっわ、上手いしプロとは聞いていたけれど、本当に上手い〜、
 このマッチョからこれほど繊細な美少女が生成されていくという事実に慣れると、自分の理想を詰め込められそう。

「あ! 私、この子がいいです」
「どれどれ?」

 床に落ちていた一枚に描かれた黒髪ロングのお姫様カットのキャラクター。
 この子、未来の千頭山(せんずやま)真宵(まよい)に似ている。
 私は死にたくない。
 未来の私が救われるように、未来の私に似ているキャラクターにしよう。
 祟り神の未来ではなく、このキャラクターのように笑顔を浮かべて過ごせるように。
 そんな願いを込めて、『宵闇の光はラピスラズリの導きで』のキャラデザにそっくりなこのキャラクターに……。

「おお、清楚系お姫様キャラだな! いい! いいぞ! どんな服装にしたいとか、希望はあるかな!?」
「和服がいいです! 可愛い着物!」
「いいねー! 色味はどんな感じがいいかな? 着物の柄は? モチーフはやっぱりお花がいいかな?」

 私の希望を色々聞いてくれる一夜さん。
 実はちょっと憧れの、髪の表と裏側が違う色にしてみてほしい、とお願いした。
 後ろから見ると黒髪、正面から見ると金色みたいな。
 一応、私の魂の性質が『太陽』らしいのだ。
 だから太陽を彷彿とさせる金色。
 黄色の着物と、赤い花。
 髪にも花飾りを添えてもらい、膝丈の着物をスカートのように見立て、生足に高めの分厚い下駄を履いてラフは完成。

「可愛いー」
「可愛いねー」
「一夜お兄ちゃんもこんな感じにしようと思ってるんだ!」
「「可愛いー」」

 短髪のマッシュルームカット、バルーンスカートの細身の美少女が、そこには描かれていた。
 これは可愛い。

「じゃあお姉ちゃんはこれ!」
「お父さんはこの子にしようかなー」
「お母さんはこれがいいなー」
「じゃあ僕はこれ」
「「可愛いー」」

 十夜姉、十夜兄その2、そして十夜父、十夜母もそれぞれ別のイメージで描かれた美少女を差し出す。
 十夜父が「十夜はどの女の子にする?」と聞き始める。
 マジでこの人たち家族総出でVtuberになるつもりなのだろうか?
 いや、一緒にデビューしてもありだと思うけれども。
 一人でやるより心強いけれども。
 善岩寺(ぜんがんじ)家Vtuberの圧に勝てる気がしないよ。
 い、いや、私一応動画勢でやるつもりだから。
 この人たちはライブ配信できそうだけれども。
 むしろ、この人たちにライブ配信してもらった方が、Vtuberとしての存在が確立していきやすいか?