ホラー系乙女ゲームの悪役令嬢はVtuberになって破滅エンドを回避したい


「私ももっと強くなってたくさんの人を助けられるようになりたいな。今はまだ力が安定するように、禊をやってるんだけれど……」
「禊か。それも大事だよな。身を清めて魔が近づかないように体の周りに膜の結界を張りやすくしたり、力を安定させたり、霊力を高めたり……デメリットがいっこもないんだって」
「らしいね」

 真智もやっているの、と聞くと場所がないので週に一度、近くの山の滝に滝行を兼ねて行っているそうだ。
 というか、この学校、二年生に上がると週に一度禊が授業に組み込まれるらしい。
 やはり禊で身を清め、霊力を高める修行は早いうちからやった方がいいということなのだろう。
 ぶっちゃけ記憶に薄いが、一年生でも一ヶ月に一度坐禅の授業があるんだとか。
 私、一度も受けてないけれど……まだ機会に恵まれてないだけ?
 まあ、小学一年生がおとなしく授業とはいえ坐禅なんて組んでいられないもんなぁ。
 一年生のうちは“小学校”というものに慣れさせ、勉強の基礎を学ぶ基礎を作る時期。
 二年生に上がってからが、ようやく修行らしいことを始められるって感じらしい。
 それもそうか。

「お前の家、海近いのいいな。毎朝禊できるんだ」
「うん。今朝もしてきた。ちょっとずつだけど、朝の寒い時間の凍えるような冷たさとか、霊力の結界で寒くない感じにできるようになってきたんだ」
「へー、やっぱ毎日やると効果が全然違うんだなー。いいなー」

 禊してきて『いいなー』って羨ましがられることがあるんだ。
 すげぇな、仏神学校生徒。

「でも、今までは小さい池だったから、海で禊するの怖いんだよね。波があるし」
「そういうのがあるのか」
「うん。攫われそう。波に」

 今朝初めて海で禊を試してみた結果、本家の池の禊がどれほど安全だったのか心底思い知った。
 海、マジ、危ない。
 まず一番ヤバいのは波に攫われそうになる――粦が助けてくれた。
 浜に細かい視認できないレベルの小虫が飛び跳ねてる――虫苦手ってわけじゃないけどシンプルに気色悪いしウザい。
 体がベタベタになる――潮水舐めてた。
 家からの距離がそれなりにあるため、朝がもっと早起きになる――今日やってみて気づいたけど朝風呂入らないと学校に来れない。体ベタベタになるから。

「って感じでそれなりにデメリットがある。海の禊」
「海といえば水の気がある場所だから、そこまでしんどいとは思わなかったな。海……海か……場所によってはかなり危険な場所だよな、海」
「うん。でも、朝の五時半とか……太陽が出てからだから、禊をやるの」
「じゃあ大丈夫か」

 じゃあ大丈夫か、とか言われるくらい陽光ってやっぱり重要なファクターなんだ。
 太陽の光ってそんなに強いんだ、と呟くと真智は「色々、魂の属性はあるけれど太陽は一番強い」と教えてくれた。
 属性とかあるんだ。
 まあ、ゲームの世界だもんな。
 戦闘もあったし。
 ああ、思い返すとあった気がするな〜。
 カードの端っこに『太陽』『火』『水』『土』『風』『雷』ってあった気がするなぁ。
 キャラクターごとに属性が固定で決まっていて、それで戦っていたような……あー、思い出してきた、ちょっとずつ。
 ストーリーが公開されているキャラクターが三人しかいなかったから、カード育成クエストで他のキャラの属性がわかる、みたいな感じだったっけ。
 主人公であるヒロインは当然『太陽属性』。
 祟り神をも浄化する、強力な力を持つ――だったかな。
 でも、色々知っていくと祟り神を倒すとか浄化するとか、そんなの不可能なんじゃないのって思っちゃう。
 その辺はゲームとは違うのかな?
 それとも、ゲームが始まる頃になったらなにか起こるのかな?
 もしくはヒロインが異常な存在なのか。

「覚えることがいっぱいあるね」
「そうだな。でも、それだけ強くなれるってことだからな」
「確かに」

 真智、本当にゲームとはだいぶキャラ違うな。
 復讐! 復讐! 復讐! 悪魔見つけたらなにを置いても真っ先に潰す!
 ……みたいな人だったのに。
 強くなって悪魔を倒す、という根本的な部分はそのままだけれど「強くなってたくさんの人を助ける」と言っているのだからやはりゲームとは違うんだろう。
 このまま成長していけば、私も真智も祟り神にならずに済むかも。
 でもそうなると他の攻略対象が心配か?

「あ、ねえねえ。聞こうと思ってたんだけど」
「なんだ?」
「真智の家にはパソコン、ある?」
「パソコン? あるぞ」
「やっぱりあるの!?」

 衝撃の返答。
 パソコンは、やはり、あった!

「叔父さんのやつだけど、あった。使ったことはないけれど」
「そうだよね、あるよね! よかった〜。時代が終わってるのかと思ったよ〜」
「時代が終わってる……?」
「あ、始まってもいない?」
「始まってもいない……?」

 すまないな、真智にはまだわからないかもしれないが私にとってパソコンの有無は今後の人生に大きく関わることなんだ。
 推し活ができるか否か。
 Vtuberが存在するか否か……。
 推し活したーい。

「本家の方、パソコンなかったんだよね。それで、存在するのかどうか気になって」
「パソコンがない!? どうやって仕事受注してるんだお前んち」
「……言われてみると確かに」

 私が見なかっただけなのかも? って気持ちになってきたな。
 でも……最悪あの鬼ババアたち仕事やってない可能性がある。
 電話とか、一見さんお断りとかの可能性も、あるか?