ホラー系乙女ゲームの悪役令嬢はVtuberになって破滅エンドを回避したい


「すぅーーーー、はあーーーーー……っ、よし」

 翌日、夜。
 夕飯を食べてからパソコンをつける。
 動画の予約は完了済み。
 あとは公開するだけ。
 いや、もちろん初配信はLiveで行う。
 ノートパソコンでできるように、(すぐる)が設定し直してくれたんだよね。
 あいつ天才すぎない?
 こんなことまでできるなんて、天才すぎない?
 ちょっとゲームの(すぐる)よりもスペックが爆上がりしてる気がしているんだけれど?
 本当にありがたい。
 しかし、いくら夏休みだからって真智や十夜からも『配信見るねー』というメールが来ているのが緊張を加速させる。
 溜息が「へぁぁぁぁ……」みたいな変なのが出た。
 緊張しているせいなのかな?
 怖いから、しっかりと手順を確認。
 改めて、もう一回、もう一回やっておくか、みたいに。

「すーーーはーーーすーーーー」

 (りん)は隣の部屋に待機。
 大丈夫、大丈夫、落ち着け。
 コチ、コチ、という時計音がまた心臓がバクバクさせる。
 時間だ。
 夜七時――ついに一夜さんのVtuber、兎追(うおい)ぴょん子の初配信が開始した。
 閲覧者は一桁。
 しかし、BGMとオープニングアニメーションが流れ始めると、二桁に達した。
 お、これは……いいんじゃない?
 なかなかの滑り出しじゃない?

『ぴょん、ぴよゎぉーん! こん! ばん、はぁー! いっえーい! どうもどうもー! 兎追(うおい)ぴょん子だよーん! 初めましてぇー!』
 
 お、おおおおお! すごい!
 完璧なVtuber挨拶だ!
 体を左右に揺らし、可愛らしい声で挨拶するアニメキャラ。
 ウインクしたり、ニコニコしたりしながら『こんばんはー、どうもー』と挨拶を繰り返す。
 閲覧者数が増えて、安定するまでは挨拶で場を繋ぐ。
 やばい、なんてハイレベルな初配信なんだ。
 私、ここまで教えてないのに。
 なんだこの人、プロか?
 本当にVtuberを知らないのか?
 すごいな、もはや生まれながらの配信者なのでは?

『こんばんはー! はいー! 皆さんこんばんはー。兎追(うおい)ぴょん子ですぅー! 私? 私が何者か、皆さん気になりますよねぇー? ですよね、ですよね! 私、兎追(うおい)ぴょん子と、このあと初配信する予定の秋月(あきつき)マヨちゃんはVtuber! バーチャルワイチューバーなんでーす! 我々はバーチャルの世界に住む肉体を持つ、架空の存在。しかし! バーチャルの体がある、皆さんの世界にインターネットを通して干渉ができるようになった、新生物! Vtuber! 気軽にぴょん子、マヨちゃんって呼んでね』

 助かる。
 一夜さんことぴょん子ちゃんがVtuberについて説明書を行ってくれた。
 いや、まあ、私からもあとでしっかりVtuberについて説明しなきゃいけないんだけれども。

『ぴょん子はねー、お月様に住む月の人類! バーチャルの体がとインターネットを通して配信者として活動を行うことにしたんだー! 好きなことはお絵描き! 色々なゲームの実況や、イラストを描く配信とかをしようと思っているよ。皆さん、登録よろしくお願いしますねー! よし、活動方針はお話ししたから、今度はぴょん子のことをもっと詳しく知ってもらうために自己紹介しますねー』

 う、上手い。
 本当に初心者か? この人。
 配信上手すぎない?
 やばい、ハードル上がってるってぇ……。

兎追(うおい)ぴょん子、身長は――』

 等々、一夜さんが考えた『女の子の自分』のプロフィールをパネルで紹介していく。
 ボイスチェンジャーを使用しているため、マジで可愛い女の子。
 私から言わせるといかにも『男が理想とする女の子』って感じではあるけれど。
 それでも閲覧者を見ると、いつの間にか百人以上の人が見に来ているじゃないか。
 え? これ、すごくない?
 個人勢の、初配信に三桁!
 しかもこの世界でVtuberという存在は、今、この瞬間、兎追(うおい)ぴょん子という存在が初めて。
 Vtuber、爆誕の瞬間。
 この閲覧者たちは、その歴史的爆誕の瞬間に立ち会った人たちといっても過言ではない。
 SNSでの事前告知やショート動画で、結構集客できていたってことなのかな?
 そういえば、ショート動画の再生回数も三桁超えたって喜んでたっけ。
 一応、声は収録せずに体を動かしたり、目元アップに初配信の日を文字入れして動かしたり、みたいなことばっかりだったけれど。
 Vtuberという存在がこの世にない今、それだけでもかなりインパクトを残せたってことなのかも?
 っていうか、本当にちびちびだけれど一夜さんの配信の閲覧者数が増え続けている。
 すごい、けど……もしかしなくてもこの人数がそのまま私の初配信にも来る可能性が出てきたな?
 いや、あのーーー……私の想定は五十人くらいだったんだけれど。
 ば、倍? マ?
 
『そんでこのあと、歌ってみたを動画投稿する予定でーす! 相方のマヨちゃんの初配信のあと、八時半に予約してあります! よかったら聴きにきてねぇ? なんの曲を歌うのかはー……うふふ! 内緒! 歌みたの待機所が出たら、見に行って当ててみてね〜! まあ、ボイスチェンジャーで歌ってるから、もしかしたらお聴き苦しいところもあるかもしれませんけれど!』

 ボイスチェンジャーを使っていることは隠さないと言っていたけれど、本当に隠さないんだな。
 さすが一夜さん。
 しかし、本当にあまりにも完璧な初配信。
 この人本当にVtuberを知らないの? と思ってしまう。
 私のために『初配信は三十分だけ』と時間縛りをしてくれたけれど、私が初配信時間を超える可能性まで考慮して歌みたの時間を八時半にしてくれるとかVtuberとして完璧すぎる。