ホラー系乙女ゲームの悪役令嬢はVtuberになって破滅エンドを回避したい


 夏休みもそろそろ後半。
 実は今日、都内のどこかで『六芒星会議』が行われるらしい。
 詳しい話は聞いていないけれど、(すぐる)からメールで『千頭山(せんずやま)家の御当主も呼び出されたそうです。おそらく、悪魔に取り憑かれていることがバレると思われます』と書いてあった。
 ついにあの鬼ババアが表舞台に引き摺り出されたってことか。
 どうなるんだろう。
 気にはなるけれど、私には干渉することはできない。
 っていうか――。
 
「では、こちらの動画を予約しておいて……」
「SNSのアカウントは作りましたか?」
「お、おお! こ、これでいいのか?」
「どれどれ……うん、大丈夫そうですね。ちなみに、ボイチャは使うのですか? バ美肉なのは公表じす?」
「うむ! するぞ! 世の美少女になることを望む男たちの希望の星になりたいからな!」
 
 本日私と(りん)はなにかしらの動きが千頭山(せんずやま)家からあるのでは、と警戒して、善岩寺(ぜんがんじ)家にお邪魔している。
 一夜さんとデビューの打ち合わせもしたかったから、ちょうどよかったんだけれども。
 ……なんだろうな、世の美少女になることを望む男たちって。
 センシティブな話?
 いや、まあ、バ美肉なのを公表するのは確かに興味を持たれやすいからいいと思う。
 前世の世界の元祖Vtuber――Vtuberという言葉を生み出したVtuberはバ美肉だと言われている。
 そう考えると、一夜さんがこの世界での元祖バ美肉となるのだ。
 彼のいう通り希望の星には、なる……のか?
 
「しかし、真宵嬢の準備の入念さには頭が下がる。俺なんてやっとショート動画を作っているというのに」
「いえいえ、一夜さんはイラストを描いてくださったり他のお仕事の仲介もしてくださったのだから私よりも準備にあまり時間を割けなかったのは仕方ないですよ」
「う、うむ……」
 
 私は色々見据えて準備をしてきたけれど、一夜さんは自分の仕事もやってきたのだから。
 むしろ、ライブ配信を中心にやっていく予定なのだから私ほど準備をしなくてもいいのでは、と思う。
 
「デビュー配信の日を五日後の八月二十八日という形にして、今からSNSアカウントでデビューを告知する――で、いいだろうか? い、いやはや、急にデビューの告知をすることになると思うと……緊張してきたな……!」
「そうですね……! でも、覚悟を決めましょう! 私たちはVtuberに、なるんです!」
「うむ!」
 
 二人でスマホを握りしめながら、緊張でカクカク震える。
 デビューのために準備してきた。
 一夜さんに至っては、今まで触れてこなかったプログラミングまで勉強してくれて。
 長い道のりだった。
 やっとここまできたんだ……!
 デビューさえできて、ある程度世間に認知されれば……破滅フラグの可能性が限りなく下がる!
 
「では……いくぞ……!」
「はい! いきましょう……!」

 というわけで、二人でスマホを握り締めながら頷き合う。
 SNSアカウントを前に二人で緊張しつつ、せーのと声をかけて送信ボタンを押す。
 内容は『初めまして! 新人Vtuber(ブイチューバー)秋月(あきつき)マヨです! 八月二十八日、夜七時半にデビュー配信をするので、お時間ある方は覗きに来てくださいねー!』と画像つき呟き。
 一夜さんの方は『おっす! おら新人Vtuber、兎追(うおい)ぴょん子! 来る八月二十八日、夜七時にデビュー配信をするから絶対観に来てぴょん! みんなに会えるのを楽しみにしてるね!』とのこと。

「あれ? Vtuberの名前、変えたんですか?」
「BGMを担当してくれた人に『インパクト足らない』と言われて、頭を捻った結果これにしたのだ。覚えやすく、インパクトもある! どうだろうか!」
「確かに……」

 インパクトは、ある……かも?
 兎追いしかの山……ならぬ、ぴょん子。
 うん、なんか、強い。
 兎人間な美少女であるところは変わらないし、まあいいのか。
 言うて私のVtuberガワも猫耳巫女。
 むしろ、ちょっと名前のインパクトが、少ないか?
 でも一応名前には由来があるからなー。

「ひとまずお互い相互フォローになっておいて、一日に一つショート動画を上げていくか」
「はい。あとはチャンネル登録のお願いをしておきましょう。確かに最初はあまり登録者数も伸びないかもしれませんが、漫画やアニメの文化はあるのです! 自分がキャラクターになれたなら、と考える人は絶対にいます! 必ず興味を持ってくれる人はいるはずですから、諦めずに頑張りましょう!」
「うむ!」

 拳を握り、頷き合う。
 ひとまずSNSアカウントのデビュー告知は完了!
 そのタイミングで一夜さんのお部屋の扉がノックされる。

「おにーちゃん、マヨイちゃん、まだいそがしい?」
「おお、十夜! どうかしたのか?」
三華(みか)おねえちゃんが、お兄ちゃんとマヨイちゃんに宿題見てもらいなさいって……まだ全部終わってないんでしょって……」
「あ、ああ、三華(みか)も来年受験だからなぁ。いいよ、お兄ちゃんが見てやろう。持っておいで」
「うん!」

 ああ、十夜はまだ宿題全部終わってないのか。
 って、もう夏休みも後半だよ?
 まだ終わってないの……!?
 
「すまないな、真宵嬢。真宵嬢は宿題終わっているのか?」
「はい。私は夏休みに入ってすぐに終わらせました。自由研究のお経暗記も、割と最初から覚えているものだったので練習も必要ないかなと」
「優秀だな」
「いえいえ」