ホラー系乙女ゲームの悪役令嬢はVtuberになって破滅エンドを回避したい


 三日後、(りん)と一緒に別邸に戻った。
 待ち構えていた秋月に、神妙な面持ちで「おかえり」と告げられる。
 
「た、ただいま。えっと、帰ってきても大丈夫、だったよね?」
「まあ、大丈夫じゃない? 菊子の興味は今、後妻のお腹の中の子に移っている。……男の子なんだってさ」
「へー、そうなんだ」
 
 ゲーム通りだ。
 後妻は男の子を産む。
 私の生母は女の子の私を産んだことで『女腹』と罵られていたが、今時赤ちゃんの性別は男性側の因子が大きいことなんて当たり前なのだと思うのだけれど。
 まあ、そんな科学的なことを言ったところで鬼ババアはとにかく嫁のせいにしたいのだから無駄か。
 
「興味なさそうだね。異母とはいえ弟が生まれるのに」
「だって興味ないもの。仲良くしたいというのなら少しは考えるけれど、お母さんが生きている頃からの不倫相手との子どもに、なんで私が関心を持たなければいけないの? でもまあ、男の子なら鬼ババアがそりゃあもつ喜びそうよね。じゃあしばらくは安心?」
「まあ、そうだね。大離神(おおりかみ)家の坊ちゃんを上手くあしらえたと思っているようだから、向こうも気を抜いているんじゃないかな」
 
 だから帰ってきてもいいと言ってくれたのか。
 確かに鬼ババアもある意味“初孫”だもの、喜びはひとしおでしょうね。
 荷物を置いて、「あ、そうだ。私明後日から真智の家と一緒に旅行に行くわ」と報告しておく。
 
「旅行?」
大栄(おおさかえ)という場所に行くの。近くに悪魔の住む屋敷があるから、真智のおじ様の仕事の都合に便乗した形ね」
 
 正確には、十夜のお母様から真智叔父が依頼を受けて同行するのに、ついていく形。
 もしも十夜母が悪霊に乗っ取られる事件が今回のことだとしたら、黙って見送るわけにはいかない。
 私が近くにいてなんとかなるかはわからないけれど、十夜のバッドエンドの可能性は少しでも減らしたい。
 
「ふぅん。まあ、いいんじゃない? 真宵がそれでいいのなら。自立して生きていくことを目標にしている真宵にとってはその程度なんだろう」
「秋月は気にしているの?」
「一応、千頭山(せんずやま)家の守護神的な立場だからね」
「あ、そうかー」
 
 忘れていた。
 秋月にとっては新しい“千頭山(せんずやま)家の人間”なのか。
 守るべき、千頭山(せんずやま)家の。
 いいんじゃない?
 千頭山(せんずやま)家の守護神なのだから、不倫相手の子どもでも大事にしてあげればいい。
 と、私は思うのだけれど、非常に複雑そう。
 
「まあ、いい。旅行には反対しない。でも、まあ新しい孫のおかげで真宵を構う暇はないだろう。婚約話についても、進めても気に留めないくらい。ネット? の手続き云々は邪魔してくるだろうけれど」
「関わってこないだけで助かる~~~! あ、でも婚約話云々はノーセンキュー。今はVtuberデビューが目の前なの。そっちに集中したいから、そういうのはもっと大きくなってから考える」
「ああ、もうそんなに話が進んでいたの? よかったねぇ。でも確か個人事業主? になる神聖には保護者の同意が必要なんじゃなかった?」
「そ…………………っ…………………そうなんだよね……」
 
 その問題に関しては未だ解決策が思いついてないというか。
 鬼ババアもマザコンクソ親父も私の自立なんて許さないだろう。
 それを認めさせるためにVtuberとして有名になる、ちゃんと世間陰活動を認めてもらう――っていう、目的と手段が逆というか。
 まあ、でもそれに関してはもう、ひとつ策がある。
 
「大丈夫! 知らなかったことにするから」
「知らなかったことにする?」
「そう! なぜなら私は子どもだから! 法律なんてわからないのよ」
 
 ドヤァ、と胸を張って言い放つと、一瞬キョトンとした秋月が、急に噴き出す。
 そして「ああ、なるほど。いいね」と賛成してくれた。
 でしょーう?
 
「そういうのってあとからさかのぼって申請できたりもするだろうし、子どもなんだからいいと思うよ」
「だよね! だから勝手にデビューして、有名になることにしたの。そのためにもまずはデビュー! 霊力も戻ってきたしね!」
「ああ、本当だ。ちゃんと回復したんだね」
 
 よく頑張って回復させたね、と頭をなでなでしてくれる。
 ふふーん、そうでしょう、そうでしょう。
 マジで頑張ってたくさん食べたからね。
 もう二度と霊力をゼロにしません。
 本当にしんどかった。
 特にトイレ。
 この若さで切れるかと思った。
 どことは言わないけれど。
 まして真智の家のトイレで……。
 いくら小学生だからって、中身は成人女性なんだから本当に心に刺さった。
 仲のいい男の家のトイレから出られないのも、そのトイレで成人女性だった頃よりもその……量がアレなアレを出して流れないんじゃないかとひやひやする羽目になったこととか。
 もう、もう絶対に……絶対に霊力切れを起こしてなるものか。
 絶対にもう二度と!
 
「それじゃあ、今日からは祈祷師として必要なものを一つ教えようかな」
「え? なになに!?」
「占い」
「占い!」
 
 祈禱師として扱えなければ困るモノの一つ、占い。
 他の霊能力者も使えるものではあるが、祈祷師には他の霊能力者よりも様々な要素を求められる。
 個人はもちろんだが、主に世界の未来などを占う。
 
「急に話が大きくなったなあ……」
 
 世界の未来と来たもんだ。