次の日の朝。
教室に入った瞬間、視線が一斉に集まった。

「おはようイナちゃん!」
「昨日テレビ出てたよな!? 全国放送だぞ!」
「ネットで『観客席の可愛い子』ってバズってたぞ!」

(えっ……うそ……!)

スマホを取り出すと、見慣れない通知が山ほど来ていた。
《#九条キョウコ観覧 #観客席の子》
——ほんとにトレンドに入ってる。



「イナちゃん、サインください!」
「お昼一緒に食べよう!」
「俺、次の授業のノート取っとくから!」

男子たちは、昨日よりさらにテンションMAX。
けど、その熱狂の反対側で、女子たちのヒソヒソ声も聞こえてくる。

「なんか最近調子乗ってない?」
「テレビ映ったからってねぇ……」

笑顔の裏でのざわめきが、チクリと胸に刺さる。



昼休み。
またしても取り囲まれそうになった私の腕を、すっと引っ張ったのはマサキだった。

「ほら、こっち」

そのまま半ば強引に中庭のベンチへ。
木陰でやっと息がつける。

「……ありがと。ほんと、人に見られるの疲れる」

「だろうな。昨日からイナの周り、祭りすぎだし」

マサキはペットボトルを開けて、ごくごくと飲む。
その横顔がやけに涼しげで、ずるい。

「でもさ」
ふと、こっちを見て笑った。

「俺だけは、イナの“ただのホクロ”も知ってるから」

心臓が、ドクンと跳ねた。
それは、ホクロのせいなんかじゃない——気がした。