数年後。

スーツに身を包み、鏡の前で髪を整えるイナ。
あれから——もう、ほくろは一度も現れていない。

テレビから流れるニュース。
《女優・九条キョウコ、写真集発売》
《“艶ぼくろメイク”がブーム!》

九条キョウコの写真集で、
九条キョウコの艶ぼくろの色っぽさが話題となり、
自らほくろを描くことが流行っているらしい

映像をみると、若者みんな胸元にほくろを描いている


(まじか‥‥艶ぼくろ‥‥懐かしいな…)

冗談のつもりで、化粧ポーチを開ける。
ペンシルで、鎖骨の下に小さな点を描いてみた。

「……どうせ、何も起きないよね」

笑いながら会社に向かう。

けれど——オフィスに入った瞬間、
同僚たちの視線が、一斉にこちらに集まった。

「イナちゃん、今日なんか雰囲気ちがくない?」
「え、かわいくない!? てか、なんか色っぽくない!?」

イナは思わず吹き出した。
「まじで……?」

胸元にそっと手を当てて、微笑む。

——艶ぼくろ。
それは、運命を動かす小さな点。


⸻完⸻