朝。
鏡の前で制服のボタンをとめながら、イナは息をのんだ。

「……ない」

鎖骨の下、あのホクロが消えていた。

登校しても、誰も騒がない。
まるで世界が静まり返ったみたい。

昇降口で、松本先輩と鉢合わせ。
親衛隊に囲まれながら、こちらを一瞬見て——
何事もなかったように通り過ぎる。

理科室の前でビーカーを持って出てきた
倉田先生と目が合った。
「おはよう」
「あっ、おはようございます。」
それだけ。いつも通りの先生と生徒の挨拶。

(……みんな、普通だ)

昼休み。
マサキと中庭のベンチに座りながら、イナはぽつりと言った。

「ホクロがなくなると、みんな普通に戻るんだよ」

マサキは頷いた。
「ふーん。そっちの方が落ち着くんじゃね?」

「うん……でも、不思議。マサキだけは変わらないんだよね」

「え?」

「ホクロがある時も、ない時も。
みんな態度変わるのに、マサキだけずっと同じ」

「たしかに‥‥??」

二人で首を傾げた。