サッカー部に追いかけられた日のことがあって、私は下校のとき、グラウンドを避けて体育館裏をそっと抜けるルートを選んでいた。

(こっちなら人目も少ないし、安心……
 今日は一日静かだったけど、
 念には念をでこっちのルート!)

そう思った矢先。

——ガンッ!

「いっ……!」
体育館の窓から突然、バスケットボールが飛んできて、頭に直撃した。

「大丈夫!?」

窓から飛び出してきたのは、バスケ部のキャプテン。背が高くて、輪郭がはっきりしていて……いかにも“ヒーロー”って感じの人だった。

「きみ、なんでこんなところ通ってるの!?危ないよ」

(なぜか、説教混じりなのに声が優しい……)

返事をしようとしたけど、ふいに鼻の奥がツンとした。
……次の瞬間、鼻血がだらだら。

「えっ!?鼻に当たった!?」

パニックになりながら、キャプテンはすぐに私の腕をとって走り出した。

「とにかく保健室だ!」



「落ち着いた?」
ベッドに座らされて、ティッシュを鼻に詰めていたら、保健室のドアが開いた。

「先輩、私がかわります」
バスケ部のマネージャーが入ってきた。

「頼む」
キャプテンは私の方をちらりと見て、小さくうなずくと部屋を出て行った。

(……背、高い……)
ドアをくぐっていく姿を、思わず見つめてしまう。



マネージャーが新しい鼻栓を用意しながら、にこっと笑った。

「かっこいいでしょ、先輩」

「……うん」

「でもね、すごい人気者だから無理だよ。ファンクラブもあるし、親衛隊のガードもかたいから。」

鼻に栓を詰められながら聞く話に、なんともいえない現実味があって、私はただ「そうなんだ……」と返すしかなかった。

「誰が彼を射止めるんだろうね」
とマネージャーはフフッと笑う。


帰り道。
マサキが私を見つけて、目を丸くした。

「お前……なにその鼻栓」

「バスケットボールが当たって鼻血でた」

「は!?顔面直撃!?」

「いや、耳の上あたり」

「……は?!」

呆れ顔のマサキに、思わず苦笑いしてしまった。