次の日の朝。
鏡の前で制服を整えながら、胸元にふと目を落とす。

「……え?」

そこには、なかった。
あの小さな黒い点。
艶ぼくろが、 消えたみたいに跡形もない。

指先で確かめても、ただのすべすべした肌。
昨日までのざわつきが、嘘だったかのように感じられて——
でも、ほっとする気持ちが半分、寂しい気持ちが半分。




登校して教室に入った瞬間、違和感が全身を走った。

「……シーンとしてる」

昨日まで、自分を取り囲んでいた視線も声もない。
誰も振り返らないし、誰も話しかけてこない。
田中はいつも通りスマホをいじってるし、松岡もサッカー部仲間と大笑いしてる。

(え……昨日まで、あんなに……?)

椅子に座り、机の上にスマホを出してみた。
けど——画面は真っ暗。

LINEも、通知も、SNSも、なにも来ていない。
いつもなら「イナちゃん今日も可愛い!」とか、意味不明なメッセージで溢れていたのに。

「……おかしい」

指先が震えた。
ホクロが消えた瞬間、ぜんぶ同時に止まったみたいに。



「イナ」

顔を上げると、そこにいたのはマサキだった。
昨日と同じように、普通に話しかけてくる。
何も変わっていない。

「どうした? 顔色悪いぞ」

「……なんでもない」

小さく首を振りながら、イナは胸元をそっと押さえた。
そこにあったはずの黒いしるし。
なくなったはずなのに、まだ熱を帯びてる気がして。

(……やっぱりホクロの影響だったんだ‥‥)

そう思った瞬間、背筋に冷たいものが走った。