「プライベートでは、ロードバイクで都内を回ることが多く、一人の時間を大切にしております。いつか、同じ時間を共有できるパートナーと出会えればと思い、参加させていただきました」
彼がそう言った瞬間、なぜか私の方を一瞬見た気がした。
「あの桐原社長が……私と同じ悩みを抱えているなんて」
小声で呟きながら、花瓶越しに彼の様子を窺う。
仕事では一切プライベートな話をしない、近寄りがたい存在として知られている彼。でも今、一人の男性として素直にパートナーを求めている姿を見て、私の中で何かが変わり始めていた。
◇
パーティー終了後、私は足早に会場を後にしようとした。桐原社長に気づかれる前に、この場を去りたい。
フレアスカートの裾を翻しながら、エレベーターホールに向かう。
エレベーターのボタンを押して待っていると、背後から足音が近づいてくる。
革靴の音──男性の足音。まさか……



