突然、冷たい雨粒が頬に当たった。見上げると、灰色の雲が空を覆っている。
「あ……」
私は傘を持っていなかった。天気予報では、晴れだったはずなのに。
「梓さん」
圭佑さんが迷うことなく、自分のジャケットを脱いで私の頭上にかざした。
「え? でも、圭佑さんが濡れてしまいます」
「構いません。梓さんが濡れる方が、僕には耐えられない」
彼は自分が雨に濡れることなど気にせず、私を庇うように歩き続けた。白いシャツが雨に濡れ始めている。
「圭佑さん!」
私は彼の腕を掴んだ。こんなにも、私のことを大切にしてくれる人がいるなんて。
「僕は大丈夫です。あそこにタクシーが」
圭佑さんが手を上げて、タクシーを止めてくれた。
車内に入ると、彼は濡れた髪を軽く払いながら、私を心配そうに見つめた。
「梓さん、大丈夫ですか? 濡れていませんか?」
「私は大丈夫です。でも、圭佑さんが……」
彼のシャツは雨に濡れて、少し肌が透けて見えている。それなのに、彼は自分のことよりも私を心配してくれている。
「梓さんが無事なら、それでいいんです」
圭佑さんの言葉に、私の心は激しく揺れ動いた。
タクシーが私の最寄り駅に着いたとき、彼は私の手を取って言った。
「今度は、梓さんが行きたい場所に一緒に行きましょう。梓さんだけの特別な場所を、僕にも教えてください」
「はい」
私は頷いた。



