『梓といると、息が詰まるんだ。もっと素直で可愛い子がいい』

あの日の言葉が、今でも私の心に深い傷として刻まれている。

真面目すぎる、考えすぎる。そんな私の本質がダメなのだと、あの時から学習してしまった。

電話を切った後、洗面台の鏡を覗き込む。

映る顔は、会社で見せる凛とした表情でも、婚活で作る愛想の良い笑顔でもない。疲れと迷いが混じった、どこか心細げな表情──これが素の私の顔。

「本当の私を好きになってくれる人なんて、いるのかな……」

呟いた言葉が、静かな部屋に虚しく響いた。



翌日の日曜日。私は再び、婚活パーティーの会場にいた。

「懲りないなあ、私も」

心の中で自分を苦笑いしながら、会場を見渡す。

都心の高層ビルにあるイベントスペースは、秋の柔らかな陽射しが差し込んで、温かな雰囲気を演出している。

今日は淡いベージュのフレアスカートに、クリーム色のカシミアニットを合わせた。

昨日の反省を活かし、できるだけ柔らかで親しみやすい印象を心がけている。

「それでは、女性の皆様から自己紹介をお願いします」

司会者の明るい声に促され、私は立ち上がる。

いつもの癖で背筋をピンと伸ばしかけて、慌てて少し肩の力を抜いた。今日は「頑張りすぎない梓」を演出しなくては。

「初めまして、新谷梓と申します。28歳です」

マイクを手に、会場を見渡す。

三十名ほどの男性たちが、期待の眼差しでこちらを見つめている。その瞬間……最前列の席にいた一人の男性が、わずかに目を見開いた。