「ええ。週末によく走っています」
「意外でした。てっきり……」
私は言いかけて口を閉じた。てっきりゴルフとか、もっと社交的なスポーツをされているのかと思っていた。
「意外、ですか?」
桐原社長が首を傾げる。その仕草が、会議室で見せる完璧な社長の顔とは違って、どこか人間らしくて親しみやすい。
「すみません、勝手なイメージで。一人で黙々と走るなんて、素敵だと思います」
私の言葉に、彼は静かに笑みをこぼした。
「新谷さんは、どちらへ旅行を?」
彼が私の持っている本に目を向ける。私は慌てて表紙を見せた。
「あ、これは……まだ計画段階なんです。ひとり旅が好きなんですけど、なかなか実行に移せなくて」
「ひとり旅ですか。いいですね」
彼の声に、心からの共感が込められていた。
「一人の時間って、大切ですよね。誰に気を遣うことなく、自分のペースで過ごせる」
桐原社長のその言葉に、私は胸がきゅんと締め付けられた。まるで、私の心の中を見透かされたような気がした。
「あの……昨日、お食事のお誘いをさせていただいたのですが」
彼が少し躊躇いながら切り出した。
「よろしければ、今からでもどうですか? もし、お疲れでなければ……」
彼の申し出に、私の胸が高鳴り始める。
「私は大丈夫です。ぜひ、お願いします」



