マンションのエントランスが開いて、すらっとした男の人が入ってきた。
コツコツ、と高そうなブーツの音を響かせ、車の鍵をぐるぐる回しながら近づいてくる。
「人使い荒すぎるんですけど〜、どこまでお送りすればよろしいのかな〜?」
その人が、顔を認識できるくらいの距離になった。私はまたギョ!っとして、耳の裏がピキンってなる。
私と目が合って亮ちゃんが一気に怪訝な顔になって立ち止まる。「誰……?」
佑月くんにもたれかかりながら、「なんなんだこの状況は……」と、思わず声が漏れる。
「いや、俺の台詞ね!?」
亮ちゃんの声がマンションのエントランスに響く。
なんだこの状況は。また熱が上がりそう……。額を押さえる。
「えぇ……っ?」
亮ちゃんが、むかい側の椅子にストンと腰掛ける。
「落ち着け。」佑月くんが亮ちゃんに言う。
「落ち着けるかぁ!」
「ちょっと亮声でかいって、可哀想じゃん、熱あるのに。」
亮ちゃんが前髪を手櫛で整えてから帽子を被り直す。「ちょ、あの、イチから説明してくれ。」
「えっと…。」佑月くんが、私を指さす。「お隣さん。」
「お隣さん!?」
亮ちゃんが食い気味で、繰り返す。
佑月くんがシー!って口に手を当てる。
「あ、ごめん。」って亮ちゃんが口を手で押さえる。



