佑月side

 車に乗り込む。
 「佑月さん、それ」
 眞鍋がバックミラー越しに俺を見て、自分の頭の辺りを指でさす。
 「あ?あぁ……これ……」
 くそぅ。カチューシャつけっぱなしだったの忘れてた。
 「何美味しいもの食べてたんですか。」
 車が動き出す。
 「ケーキと、チキンと、あとなんだ……」
 凛のコスプレ、可愛かったなあ……。
 駐車場を出る手前で車が止まる。
 眞鍋が泣いていた。
 「はっ?なんで泣いてんの?」
 「すみません……」
 眞鍋が俯く。
 「まじでお前はすぐ泣くなあ」
 「すみません」
 どうせまた、俺、佑月さんのことになるとすぐ泣いちゃいます〜とか言うんだろ。
 眞鍋が声を震わせながら言う。
 「どうしても、願ってる自分がいるんですよ。どうか少しでも長く、佑月くんと宮部が一緒にいれますようにって」
 眞鍋がズーーッて鼻水を啜る。
 「永遠とかじゃなくていい。だからせめて1日でも、1秒でも長く、誰にも責められずに、自分を責めずに、2人が一緒に居られますように、って……。僕が言うのも間違ってますけど……。いいですよね、今日くらい。クリスマスですもんね」
 優しすぎるその性格は、マネージャーには不向きだろう。それでも、この苛烈な世界の中で大切な心を手放さない眞鍋を、俺は誇らしく、そして愛おしく思う。
 眞鍋が、目をごしごし拭いて、眼鏡をかけ直す。
 「僕が泣いてすみません。」
 車が動き出す。
 光の粒をまとう木々が、窓の外をきらめきながら過ぎていく。