「は?忘れたんじゃなかったんか?」


ここは、俺と亮の行きつけの美味しいお鍋のお店。
2人で、鍋をつつく。


「あのマンションから引っ越して、凛ちゃんと離れて、最初の頃の佑月は、誰が見てもわかるくらい気が抜けてたけど……。最近はもう吹っ切れたのかと思ってた。」


ぐつぐつ、鍋の煮える音。


「大丈夫かなぁ。」亮がはんぺんをかじりながら呟く。
「大丈夫ってなにが?」
「凛ちゃん。」
「凛は、誰にも言わないよ。」
「言わへんやろな。言えへんくて、誰にも相談出来ない。きっとひとりで泣くで。」
亮を見る。亮とは目は合わない。


「凛ちゃんには耐えられないんと違う?」
「え?」
亮が鍋をかき混ぜながら言う。
「真面目で、嘘つけなくて、間違ったことができない、凛ちゃんには、きっといつか限界がくる。なんも知らん方が、幸せなんちゃう。」
「でも。」
「佑月がいなくなった寂しさだってどうせいつか忘れる。凛ちゃんだって他に好きな人が出来て、幸せになる。」
亮の鋭い眼差しが、俺に向けられているのを感じた。


他に、好きな人……。俺以外の、誰か?


亮が、はぁ。ってため息をついた。