「‥‥‥‥」
 
 頬が濡れてくる。

 涙‥‥もあるけど、いつの間にか、雨粒が落ちてきている。顔を上げると行き過ぎる人達は傘をさしていた。

 もちろん、傘なんて持ってきていない。

 別に濡れたって構わなかったけど、条件反射のように雨をしのげる場所を探して、ビルの小さなひさしの下に入った。

 建物はガラス張りの外壁で、私の情けない顔が映ってる。

 「‥‥‥‥」

 アスファルトに落ちる雨音が、無関心に通り過ぎていく人々の足音と、私の呼吸の音を消している。

 音は確かに聞こえているのに、まるで無音の世界に感じる。
 


 そう言えば連絡の来なかった最初の週も、こんな雨が降っていた。

 もし‥‥あの日に彼と会っていたら、傘をさして二人で歩いていたのかもしれない。

 そうしたら‥‥多分、喧嘩なんて笑いにしてた。

 その日も、次の週も会って、一緒にいろんな所に行って‥‥そして寂しい時は、優しくキスをしてくれて‥‥。

 「‥‥一人は‥‥嫌だよ‥‥」

 私は肩を押さえてうずくまった。

 目を瞑ると真っ暗な世界に、雨の音だけが響いていく。

 でも目を開ける事ができない。