「ここのカフェレストラン。前に雑誌に載った事もある有名な場所なんだ。ランチのサーモンのポワレは人気らしいよ」

 「‥‥うん」

 会社の先輩はよく私を食事に誘ってくれる。

 今日は祭日。都心からちょっと離れた所にあるオシャレなお店の前にいる。

 いつも気にかけてくれる良い人。他の女子からも人気がある。

 「デザードも選べるんだってさ。季節のフルーツを使ったタルトやムース‥‥どれがいい?」

 「‥‥‥‥」

 どうして私なんだろうと思う。デートに誘うなら、もっと先輩を好きな人を誘った方がいい。

 ごめん‥‥やっぱり‥‥無理。

 「‥‥すみません」

 小声でそれだけ言うのがやっとだった。振り向かずに、目を瞑ってただ走る。少しでも早く離れたかった。

 多分、先輩は何かを言ってたんだと思う、でも、その声を聞く勇気が無かった。

 「‥‥はあ‥‥はあ‥‥」

 何処をどう走ったか何て覚えてない。気が付けば何処かの知らない街中。

 ビジネス街なのか、結構な人が行き来している。走り疲れた私は何処かのビルの壁に手をついて肩を上下させてる。

 「‥‥‥‥」

 背中で寄りかかり空を見上げる。空はどんよりとした灰色で、今にも雨が降ってきそう。