最初は叶さんが『美緒』に出会った馴れ初め。わがままでも、そんな彼女に惹かれている叶さんの心情が事細かに描いてある。

 海沿いのカフェに行くと、海に落ちて行く夕陽が綺麗で『美緒』は叶さんの話には全く乗ってこなくなってしまう事。

 そして、そんな彼女に惹かれている叶さんの心情が描いてある。

 私は彼がどんな思いで『美緒』に向かい合ったのか‥‥この本を見て初めて知った。

 彼は口数は決して多い方ではないけど‥‥その心の奥には、『美緒』を思う情熱が炎の様に燃え盛っている。

 「‥‥‥‥」

 ページをめくっていくと、『美緒』と叶さんが珍しく喧嘩をする場面になった。

 理由は些細な事だったけど、こじらせてしまい、春さきからずっと続く事になった。

 そこで叶さんは『美緒』に手紙をしたためる。

 その内容は‥‥私が見た紙、そのままの文章で‥‥。

 何とか渡した叶さんはひたすら待ち続けて、そしてやっと美緒が現れた。

 「‥‥‥これって‥‥‥」

 潮風のにおい、窓際の席、苦いカフェラテにしかめた顔。

 彼が笑ったタイミングさえ、文章の中にそっくり書かれていた。

 その彼女は『美緒』ではなく、美緒‥‥私だった。

 彼女‥‥私と再び出会えた事に幸せを感じる文章で一杯だった。

 明らかに以前の『美緒』と、今の美緒は違う人物。

 それを知ってて彼は私を以前の『美緒』として接した。

 私は‥‥現れなかった『美緒』の代わりなのかもしれない。

 そう思ったとき、何とも言えない寂しさが体中を包んだ。




 彼の前のあの席は‥‥私の居場所じゃなかったと。