その日が来るまでの時間。だけど、その日が近づいてくると体がソワソワしてくる。

 あれはただの悪戯に決まってる。そう思い込もうとしたけど、カフェの記憶と、紙に書かれた言葉がそれを邪魔してくる。

 このまま囚われてはいけない。そこに行くのは自分自身を納得させる為に、仕方のない事‥‥

 そんな言い訳を繰り返しているうちに、

 気が付けば、記憶の中にあるカフェのある入江に向かっていた。
 


 ローカル線の電車は海岸沿いに走り続ける。

 天気が良くて、雲一つない空は水色じゃなくて濃淡の無い蒼色が一色。

 車窓からは水平線がどこまで広がっているのが見える。

 「‥‥‥‥」

 私は紙を広げて読み返し、また折り畳んでカバンに戻す‥‥その繰り返しをしている間に目的地にはあっと言う間に到着していた。

 寂れた駅を降りて、バスに乗る。乗客は私しかいない。

 小さなバス停を降りて、妙に小ぎれいなアスファルトを歩いていくと‥‥遠くに白い家が見えた。

 「‥‥‥‥」

 青い木の扉と、大きな四角い窓。窓の下には何かの木が一本だけある植木鉢が一つ。手前のメニューボードが無ければ、

 ここがカフェだという事は分からないかもしれない。
 

 旅行で一度来ただけ‥‥それなのに、ちゃんと場所を覚えていた。

 私は扉を開けて中へと入る。チリンと小さな音が鳴った。

 途端に珈琲の香の乗った程よい風に包まれる。

 ボサノバの音楽が店内を穏やかな時間に変えていた。