=この手紙は、私じゃない“誰か”に宛てられたものだった。
  それでも私は、その人のふりをして、彼に会いに行った=



 「真柴さん、今日の打ち上げは出席しないんだよね」

 「うん、ちょっと用事があって」

 私はちょっと苦笑い。

 「はい、じゃあ、お疲れさまー」

 後輩のナオちゃんが、飲み会の出席確認をしてる。

 会社で上半期が終わった所で、反省会を兼ねての打ち上げ会‥‥というのは建前で、その実は、ただの飲み会になってる。

 あっさりと断る事ができたのは、社の男性の目当てが、若いナオちゃん狙いだから。

 新入社員だった頃は、私もよく誘われてた。付き合おうと言われた事もある。でも、心の奥でこの人じゃない‥‥と、

 囁き声が聞こえてきて、結果、全部、断っていた。そうしてる間に、私の方が彼らの眼鏡には叶わなくなったらしい。

 会社とアパートを行き来して毎日が過ぎていく。

 あと少しで三十歳になるけど、こんな事でいいんだろうかと思う。

 だから、寂しいと思う気持ちもなくはない。

 「‥‥‥‥ふう」

 帰宅ラッシュの電車を乗り継いで、今日も大体同じ時間にアパートに帰宅。

 幸い、明日は休み。

 今日は‥‥貯まってるドラマでも見て夜更かしでもしようか。

 そんな事を考えながら、ドアノブに手をかける。

 ドアを開ける前に郵便受けの蓋をあけてチェックする。それが日課になっていた。

 「‥‥‥‥ん?」

 どうでもいいような折りこみチラシの下から、二つ折りの白い紙が出てきた。

 表には「真柴美緒」と、私の名前が書いてあって、住所は記入されていない。もちろん判もないし、郵便で来たものでもない。

 「何、これ」

 紙を開くと何か書いてあった。少し気味が悪かったので、見ずにそのまま捨てようかと思ったけど、

 一応、中身を見てからと思って、部屋に入ってすぐに書いてある文面を読んだ。
 
 そこにはこう書いてあった。