私は次の日、学校を休んだ。

 仮病だったけど……それ以上に心が限界だった。

 夕方、チャイムが鳴った。

 「千紗? 私だよ」

 ドア越しに聞こえる声に、私は涙が出そうだった。

 心配した真帆が、わざわざ見舞いに来てくれたのだ。

 部屋に入った真帆は、差し入れのお菓子を机に置くと、私の顔を覗きこんだ。

 「大丈夫? 本当に具合悪いの?」

 「……ううん。違うの。学校に行くのが怖いだけ」

 小さな声で言うと、真帆は驚いた顔をして、それから困ったように眉を下げた。

 「ねえ千紗、そんなに駅が嫌ならさ……」

 「……?」

 「だったら、駅を一つずらせばいいんじゃない? ひと駅分歩いてから乗れば、あの人には会わないでしょ」

 「……!」

 頭の中に、光が差したみたいだった。

 「そうか、その手があった!」

 重く淀んでいた気持ちが、一気に晴れていく。

 「真帆……ありがとう!」

 本気でお礼を言うと、真帆は少し照れたように笑った。

 その日は不思議なくらい安心して、布団に入った途端、深い眠りに落ちていった。




 一日ぶりの学校が終わって、私は真帆の自転車の後ろに乗って(本当はダメなんだけど)、一駅向こうの駅まで行った。

 この駅は、いつも通り過ぎるだけで、乗り降りした事がない。改札も、駅舎も何もかもが新鮮。

 ホームに降りる階段を下っていく。

 私はただ普通に歩いていただけだった。

 「…………え?」

 階段を降りた先……何両分か向こうに、あの男性がいた。

 ベンチに座り、スーツを着て、少し項垂れている。

 前に見た時より、また近づいている。

 「……い……」

 叫びだしそうになる声を押さえて、私は降りてきたばかりの階段を駆け上がった。

 怖い……段々と近づいてきてる。

 このままだと、そのうち……。

 私は……どうしたらいいの?