“間もなく、1番線に下り電車が参ります。危ないですから‥‥”

 アナウンスされたのは、反対側のホーム。

 すぐに電車が近づく音が響いてきた。

 「‥‥‥‥」

 私は男性をずっと見てた。

 ホームに電車が入ってきた。だけど、その人は電車が到着する寸前になっても、立ち上がったりはしなかった。

 降りる人の足音が聞こえてくる。

 車体が陰になって見えない。

 すぐに電車は出て行った。

 「‥‥‥‥」

 走り去った後、その人はまだホームのベンチにいた。

 スマホとか、新聞を見ているわけでもなく、ただ、じっと斜め下を見つめている。視線の先は分かるのに、

 やっぱり顔は分からない。
 

 じっと見ていると‥‥吸い込まれていきそうな‥‥。

 “‥‥間もなく、2番線に上り電車が参ります‥‥”

 「!」

 アナウンスの声にハっとする。

 気が付いたら、周りには結構な数の人が立っていた。 

 私が立ってたホームに電車が来る。

 生暖かい風が私の体を吹き抜けていく。

 ドアが開いた瞬間、私は車内に駆けだした。

 そして反対側のドアの窓から、向こうのホームを見渡す。

 「‥‥‥‥いない?」

 さっきまでいたはずの男性の姿がない。

 男性しかいなかったはずの下りホームには、見慣れた人混みの光景があった。

 電車が動き始めると、反動で体が少し傾く。

 ガタガタと揺れながら車窓から見える景色は、日常そのまま。



 今の人は何だったんだろう。

 何でこんなに気になるんだろうか‥‥。
 
 私がその違和感の正体に気が付くまでに、それほど時間はかからなかった