でも。
もう、そんなこと、ひとつも思ってなかった。
脳裏に浮かぶのは、初めて声をかけた、あの日。
――『どうしたら、俺のこと諦めてくれる?』
それが今、そのまま。
痛いくらい、自分に返ってきている。
吉川は、俺の言葉をちゃんと聞いて。
何度か瞬きをしてから、静かに、息を吸った。
「……今まで、ありがとうございました」
その言葉は、ひとつも嬉しくなかった。
感謝なんて、いらなかった。
背中を向けて、吉川は教室を出ていく。
引き止める理由も、引き止める言葉も、もう、残っていなくて。
ドアが閉まる音だけが、やけに、はっきりと響いた。
吉川。
めんどくさいし、どーでもいいよ。
吉川と付き合ったら、俺が卒業したとき、寂しい思いさせるだろうなとか。
同級生と付き合ったほうが、いいんじゃないかな、とか。
そういうこと、考えるの、すごくめんどくさい。
吉川は、俺以外の男とキスしたことを、ずっと引きずってるんだろうけど。
それだって、正直、どーでもいい。
――いや、ほんとは。
吉川が、ずっと俺のことを、見ていてくれるなら。
そんな小さなことなんて、本当は、どうだってよかったんだ。


