ぜんぶ、ちょうだい。




「……ん。わかった。もう、俺からも話しかけない。これで最後ね」



そう言って、吉川の横を通り過ぎる。

――これでいい。

吉川だけが特別なわけじゃない。
今まで、ずっと。俺は、こうしてきた。

扉に手をかけた、その瞬間。



「……まって」



か細い声。ほとんど、消えそうな。

次の瞬間、背中を、ぐっと引っぱられた。



「なに?はなし——」



言い切る前に。



「キス、したんです」



息が、止まる。



「先輩以外の人と」



思わず、振り向いた。

制服を、ぎゅっと引っ張る吉川の手が、小さく震えている。

そして。

吉川の頬を、ツーッと、涙が伝った。



「私からしたわけじゃない、けど……」



途切れ途切れの声。
必死に、言葉を探してるのがわかる。



「避けれなく、て。先輩のことが好きなのに、これじゃ、隣に立てないって……思って」



胸の奥が、じくっと痛む。



「先輩を見つけても、うまく話せる自信が、なくて」



吉川はそう言って、ぐしゃっと涙を拭った。