ぜんぶ、ちょうだい。




考えるより先に、吉川の腕を引っ張っていた。



「ちょっ、どこ行くんですか、先輩!」

「ほんと、迷惑」



引っ張った腕は、驚くほど細くて。
男の力を少し入れただけで、簡単に壊れてしまいそうだった。

一瞬、手を離しかけて。
でも、逃がしたくなくて。

持ち替えて、ぎゅっと、手を握りしめた。


一番近い空き教室に、そのまま引き込むように入った。
がらんとしていて、机と椅子だけの静かな空間。

ドアが閉まる音が、やけに大きく響く。

吉川は、またすぐに視線を逸らした。
さっきから、ずっとそうだ。

なのに。

繋いだ手を離すと、一瞬、指先が残る。
名残惜しそうに、ほんの一拍、ためらうみたいに。

……どっちなんだよ。



「吉川。なんで逃げんの」



できるだけ、感情を抑えて言ったつもりだった。



「いや、別に、逃げてるわけじゃなくてですね」



歯切れの悪い返事。
言い訳みたいで、余計に腹が立つ。