ぜんぶ、ちょうだい。


*

*

*



文化祭が、明日に迫っている。

その日の食堂は、いつもよりざわざわしていて、心なしか、全員が浮足立っているように見えた。



「今日、どこで食べる?」



隣に立つ秦が、牛丼の食券のボタンを押しながら聞いてくる。慣れた手つきで、迷いもない。
「どこでも」とそっけない返事をして、俺はハンバーグ定食の食券を取った。



「中庭いこーぜ」



秦のその一言に、軽く頷く。
そして、振り返った、その瞬間。

秦の背中越し。食堂の入り口付近で。


――吉川と、バチッと目が合った。


一秒もないはずなのに、時間が、妙に伸びた気がした。


気まずそうに、吉川は手を小さく振った。

それだけ。それだけなのに。
すぐに、目を逸らされる。

……は。
なんだそれ。



「……は、ムカつく」



思わず、声に出ていた。自分でも驚くくらい、低い声。



「かお?」



秦が不思議そうに呼ぶけど、もう、そっちは見れなかった。
食券を、秦の手に押しつける。



「これ、頼む」



それだけ言って、俺は吉川のほうへ急いだ。

その動きを見た瞬間、吉川は、はっとした顔をして。
次の瞬間には、食堂を飛び出していた。


――逃げんなよ。