「でもさ」
秦は、何でもないことみたいに続ける。
「かおが女子気にするなんて、珍しいじゃん。その吉川さんって子」
「気にしてるつもりはないって。水元に、何聞いたんだよ」
「吉川さん、いい子だって聞いただけだけど?」
秦は少し考えるみたいに、視線を上げて。
「それに結構前だけどさ。俺ら中庭にいたとき、絡まれてた女の子かお助けてたことあったじゃん」
筆先が、わずかに止まる。
「あれ、吉川さんだろ?」
「……秦って、なんでそんなとこまで見てんの?」
「かおのことが好きだからー」
ニヤニヤしながら言う秦に、一気にイラっとして、つい、頬をつねった。
「いって!」
思いきり手を振り払われて、俺は何事もなかったみたいに、また筆を動かす。
いらんとこまで見てんなよ。
心の中で、秦にそう言い放った。
でも、秦のせいで、今度は吉川の顔まで思い出してしまって。
それがまた、無性に腹立たしくて。


