ぜんぶ、ちょうだい。




「かお、最近様子おかしくね?なに? もしかしてマジでヨリ戻した?」


「は?」



思わず、素で聞き返す。

ヨリを戻したって、誰と、誰が。



「修学旅行から帰ってきて、噂になってんぞ。かおと水元の話」



一瞬、手が止まる。



「……それ、否定してくれた?」


「しようとしたけどさ」



秦は刷毛を持ったまま、少し困ったように笑う。



「ほんとかもしれねーなって思って。俺、別れた理由しらねーもん」



そう言われて、何も返せなくなる。
ふう、と小さく息を吐いて、俯いた。

目の前には、文化祭の看板。授業が終わってから、ずっとここにいるのに。
色はほとんど埋まっていなくて、作業は全然進んでいない。

何のために残ってるんだよ。

そう思いながらも、俺はゆっくり顔を上げて、言葉を探すみたいに、口を開いた。



「付き合う前から、水元がモデルになりたいって知ってたからさ。事務所の方針で別れたんだよ。普通に円満だし。俺もあっちも、未練なんてないから」



そう言うと、秦はしばらく、じっと俺の顔を見ていた。
それから、少し間を置いて、「そうなんだ」と、納得したように、そう言った。