風の音と、水の音だけが聞こえる場所で、蓮がふとボートの漕ぎを止めた。

「なあ、ことは」

「うん?」

「今日、誘ってよかった」

「私も……来られてよかったよ」

そう答えると、蓮がゆっくりこちらを向いて、真剣な表情を浮かべた。

「お前といるとさ……なんか、全部忘れられる。面倒なこととか、チームのこととか、過去とか」

「……蓮くん」

「だから……お前のこと、ちゃんと、大事にする」

その言葉に、ことはの胸がぎゅっと締めつけられた。

「……私も、蓮くんといる時間がいちばん好き」

ふたりの距離が、自然と近づいていく。

もう、何も言葉はいらなかった。

そっと触れ合うように、蓮がことはにキスを落とす。


水面が静かに揺れて、風が優しく吹いた。