こんな感情、信じたところでどうせ裏切られる。

 誰もが勝手に噂を信じて、近づいてきては、勝手に離れていく。

 そういうの、もう何度も味わってきた。

 でも――ことはだけは、違った。

 猫に優しくて。

 ちゃんと話を聞いてくれて。

 何より、“俺を怖がらなかった”。

 それがどれだけ、嬉しかったか

(あいつは、知らないんだろうな)

 自分がどう見られてるか。

 教室でどれだけ浮いていて、どれだけ避けられているか。

 それでも、ことはの目は澄んでいて――

(ちゃんと、見ようとしてる)

 そのことが、どうしようもなく、心に引っかかっていた。

 蓮はポケットの中で、ぎゅっと手を握った。

 掌の中にある、小さな飴の包み。

 それは、さっき購買でふと目について、何となく買ったものだった。

(……渡すわけねーし)

 苦く笑って、そのままポケットを押さえる。

 渡す理由なんてない。

 でも、もし――“あいつが甘いの好きそうだったら”なんて、思った自分が一番キモい。

「……はあ」

 自嘲気味に息を吐いて、下駄箱の方へと歩いていく。

 どうせ明日になれば、ことはも周りに何か言われるだろう。

 “あんなやつと関わるな”とか、“近づかない方がいい”とか。

 ――それでも、席は隣。

 話さない理由が、もうなくなった。

(……別に。俺は俺で、いればいい)

 だけど、心のどこかで、ほんの小さく灯った期待だけは――

 まだ、潰すことができなかった。