蓮side



放課後の廊下は、思ったより静かだった。


 靴の音と、遠くから聞こえる部活の掛け声。それだけ。

 ことはに声をかけた直後、蓮は廊下を一人で歩いていた。

 さっきの会話が、胸の奥にずっと残っている。

(……なんであんなこと、言ったんだろ)

 “お前みたいなのが、隣でよかったよ。”

 そんなの、自分らしくもない。

 誰かに好かれようと思ったことなんて、一度もない。

 誰かに期待することも、されることも――もう、終わったと思ってた。

 だけど、あの子は――

(逃げなかった)

 最初に声をかけたときのことを思い出す。

 猫を見つめる、あの真剣な目。

 怯えていたくせに、それでも足を止めた声。

(……バカみてぇに、まっすぐで)

 わかってる。