「学校の廊下での喫煙は感心しませんね、ゼロさん」
ヒイラギが振り向き、物腰柔らかい声で言った。
丁寧な敬語。一見すると優等生の注意だが、その眼光はアタシを人間として見ているのかすら怪しい。
「うるせぇよ。アタシに指図すんな」
「指図ではありません、ただの事実です。……それに、あの教師の言っていた『ネズミ』のことですが」
ヒイラギは胸ポケットから仕立ての良いハンカチを取り出し、眼鏡のふちを静かに拭った。
仕草一つひとつが無駄なく洗練されている。
「組むとは言ったものの、実の所僕一人で十分勝算はあるんです。 なので君がいると足手まといになる可能性がある。 どうです?来ますか?」
「……あ?」
静かな、けれど明確な見下し。
アタシの眉間に深い皺が寄るのを見て、クソメガネは満足そうに口角を上げた。
その微笑みの裏で、彼が何を考えているのか――アタシには微塵も読み取れなかった。
「舐めた口きいてんじゃねえぞ、お坊ちゃん。あたし一人で十分だって言ったろ」
「ふふ、血気が盛んなのは良いことです。
では、今夜九時。繁華街、三番街の廃ビルで」
優等生は眼鏡をかけ直すと、スッとアタシの脇を通り抜けた。
すれ違いざま、冷たい冬の匂いと、微かな薬品のような香りが鼻腔をくすぐる。
